絵空言




粉雪の行方

粉雪が
風に舞ふ

雪は
窓の隙より入り込み
人知れず溜まり
積もり
部屋は雪に埋もれ
雪は部屋に染み込み

雪は
氷となり
堅氷となり




微塵に砕ける


  1. 2017/03/12(日) 11:31:13|
  2. 詩のやうな

変容

或る晴れた暖かな日の事です
虚無は久しぶりに日の下を散歩する事にしました
何故かつて?
それはたださう云ふ気分になつたからとしか云へません
外に出るのは何年ぶりでせうか

心も軽く草原の道を歩いてゐると生が道端の石に腰かけてゐました
生は酷く陰鬱な顔をしてゐて虚無が話しかけようと近づくと虚無を見上げて云ふのです

「そろそろ来る頃だと思つてゐたよ
君はどうして此処に来たのか知つてゐるかい
僕が呼んだのだよ
あゝ僕は君を呼ぶべきではなかつた
呼ぶつもりすらなかつたのに
何もかもが終つてしまつた

…君は死に似てゐるね
君に僕が殺せるかい?」

云ふや否や生は立ち上がると論理で虚無を焼き尽くさうとしました
慌てた虚無が咄嗟に生の意味を剥がしてしまつたので生は翳(かす)み始め
さうして消えてしまひました
絶望と驚愕の表情を最期に
まるで初めからゐなかつたかのやうに消えてしまひました

「何だか取り返しのつかない事をしてしまつたやうな気がする
何も慌てる事はなかつたのに
論理で私を焼き滅ぼすなんて出来る訳がないのだから」

虚無が呟きます

「何だか硝子細工を踏んで壊してしまつた気分だ…」

青い空に鳥が鳴きとても気持ちのいい日です
軽かつた足取りが少し重くなつたやうな気がするけれど虚無は歩き続けました

暫(しばら)く行くと道の真ん中で死が仁王立ちして虚無を睨みつけてゐます

「見てゐたぞ
おまへ生を殺したな」

「仕方ないのだよ
生がいきなり」

「生如きにおまへを殺せるわけがないだらう
おまへは何もせずに黙つて帰ればよかつたのだ
生を殺すのは俺でなくてはならなかつたのに何故おまへが殺すのだ
おまへは地上に出てくるべきではなかつた
陽の光を浴びるべきではなかつた
永遠に地の底を這いずり回つてゐればよかつたのだ
化物め

…おまへは俺に似てゐるな
おまへがゐると俺の影が薄くなるから消えてくれないか」

さう云ふや否や死は虚無に喰いつき虚無を呑み込みました
呑み込まれた虚無は慌てて死の腹を裂き其処から出て逆に死を呑み込みました
死は絶望と驚愕の表情を浮かべたまま虚無に呑み込まれていきました
死は虚無を裂く事ができずにそのまま虚無の中に消えました

「あゝあゝ今日は何と云ふ日だらう
私は一体何をしてしまつたのだらう
生も死もゐなくなつてしまつた
私が殺してしまつた
あゝあゝあゝもう二度と返らない
生にも死にも二度と会えない
元には戻らないのだ」

虚無は立ち止まり空を見上げて泣きました

「生も死も私がゐなければ今まで通りに過ごせてゐたのに
私はどうすればよかつたのだらう
このやうな事になつてしまふとは思ひもしなかつた
あのまま地の底で眠り続けてゐればよかつたのだらうか
でも私を呼び起こしたのが本当に生だつたとするなら
何もかもが必然なのだらうか
私にはわからない」

風は緩やかに纏はりつき
陽射しは穏やかに全てを包み込んでゐました

「私は生と死の影だと思つてゐたのだけど
どちらも私が殺してしまつた
私が虚無なのは彼らが私をそのやうに定めてゐたからならば
今の私は何なのだらう」

虚無はため息を吐いて草叢(くさむら)に寝転びました
青い空に白い雲がゆるりと流れて往きます
目を閉じれば暖かな風が頬を撫でていきます

虚無はすでに虚無ではなく
全く別の何かへと変はり始めてゐるやうでした


  1. 2017/03/07(火) 21:01:00|
  2. お話

喪失

春まだ浅き
沈丁の香に
思ふ君は遠く
私は過ぎし日を見失ふ

風冷たき
蒼天に
思ふ残雪の峰は遠く
私は己を見失ふ

失ひて
失ひて
失ひて後に
残された私は
すでに誰でもなく
都会の雑踏に
紛れて消える


  1. 2017/02/26(日) 21:53:00|
  2. 詩のやうな

我が影の名

鈍色(にびいろ)の影
我を導き
我に従ひ
我に纏はり離れぬ者


鈍色の影
そは我が影にして
我を滅ぼす者

我が友にして
我を蝕み殺す者


我が鈍色の影

汝の名は虚無



  1. 2017/02/21(火) 21:59:56|
  2. 詩のやうな

深海模様

誰も知らない静かな海の底で
環形動物たちが虚無を吐き出してゐる
一心不乱に吐き出してゐる

陽の光の届かない遠い海の底で
貝たちは黙り込んで
蝦や蟹たちは気づかないふりをして

虚無が満ちてゆく

泳ぎ回る魚や鯨はやがて蝕まれ
溶けて
落ちて来る
落ちて来る

僕はまるで貝のやうに口を閉ざし
降つて来る魚や鯨の断片を眺めてゐる

さうして船が降つて来る
街が降つて来る

陸地が
溶けて
崩れて
降つて来る

あゝ虚無が地上を覆ひ尽くしたのだらう
人間たちは抗ふ術もなく呑み込まれたのだらう


蝦や蟹たちが降つて来た断片を忙しなく漁つてゐる


  1. 2017/02/18(土) 15:04:00|
  2. 詩のやうな

守宮 (やもり)

守宮が壁を這つてゐる
誰もゐなくなつた家を見つめてゐる

重機が音を立てて
家屋を取り壊して行く
土埃の中
守宮はひつそりとそれを見つめてゐる

残された壁に
守宮が這つてゐる
月明りの中
瓦礫の山をじつと見つめてゐる
  1. 2017/02/11(土) 20:59:00|
  2. 詩のやうな

遠く遠くの物語

遠い遠い星の上
大きな戦(いくさ)がありました
遠く遠くの星からも
それは見えるくらゐでありました

星は小さく瞬いて
静かに静かに消えました
遠い遠い空の果て
小さな星が消えました

星は一つ二つと消えてゆき
夜空は暗くなりました

遠い遠い空の下
小さな花が咲きました
小さな小さな花なれど
いづれ小虫を呼ぶのでせう
さうして春を呼ぶのでせう

誰もゐない春なれど
それでも花は
呼ぶのでせう
儚き事を知りながら
遠くの春を呼ぶのでせう


  1. 2017/01/09(月) 21:08:28|
  2. 詩のやうな

混線

「α(アルファ)聞こえるか?此方 Ω(オメガ) α 応答できるか?」
「此方 α…良く聞こえない…至急…」

「調子はどうだね」
「ダメだな」
「さうかね」
「それだけかよ」
「おまへさんはいつもダメだなしか言はん」
「ダメなもんはダメだ」

「混線してゐるのか?α ダメと云ふのは何だ?状況を報告せよ!」

「申請書は出したのかね」
「いや…無駄だらう」
「許可は出ると思ふがね」
「上は甘いからな 許可はすぐ下りるだらうし志願者もゐるだらうが…
計画自体が無駄な気がしてならん」
「さうかね」

「いや無駄ぢやない…Ω 支援要請する すぐに空軍を送れ…まだ間に合う 座標は…」

「今まで何人送つたと思ふ?それで此のザマだ」
「諦めるのかね もう一度やつてみてはどうかね」
「…おまへはどうしてさうも楽観的なのかね
現実を見てゐないのかね」
「見てゐるさ
…迫害 黙殺 取り違ひに稚拙な模倣
さう云ふのばかりだといふのだらう?


「α 何を云つてゐる?送つたと云ふのは何だ?
おい勝手に諦めるな!状況はどうなつてゐる?」

「志願者たちは実際よくやつてくれたよ
文句ひとつ云はずに黙々と救世主を演じてくれたからね
にも関はらず効果はさつぱりだ 何故だと思ふ」
「受け手の問題だらう」
「分かつてゐるぢやないか」

「Ω 何も分かつてないぞ…至急援軍を要請する 至急だ 今すぐだ!」

「そもそもそれが目的で此の惑星に転生してきてゐる奴自体が少ないからね
争ふばかりで関心も何もないのは仕方ないだらう」
「でもあれだぜ 大枠の仕組は上からきてゐるから全ての者に影響するのだぜ
でなければこんな計画は要らんだらう」
「なのにもう申請はしないのだね」
「あゝさうだな…前回ので打ち切りだ」

「おい打ち切るとは何だ それは撤退命令か?」

「ふむ…本気で計画を破棄するのか…全滅するぞ」
「いや破棄ぢやない…変更だ」
「でも救世主は送らないのだらう?」
「送らないが前任者たちが文字に種を仕込んでおいたからな
その種が芽吹くやうに確率を操作する」

「破棄?全滅?いやいやいや全滅してない どう云ふ事だ?
何があつた?
作戦を変更するのか?指示は? Ω 応答せよ!」

「ふむ…外から送り込むのではなく内から芽吹かせて育てるのか」
「さう云ふ事だ…救世主の影響力を使はうと思つてゐたがそれがダメなら一人ひとりに直接働きかける他あるまい」
「不確実な多数よりも確実な少数を選ぶのか 最後の賭けだな」
「その少数が確実なのかも怪しいけどな 他に手を思ひつかん」

「他に手が無い?Ω どうした?支援さえあれば取り返せる…」

「上は何か云つてゐるのか」
全面的に協力すると云つてゐたよ
まあ期待値の大幅な引き下げは避けられないね」
「次の文明に繋がりさへすれば計画としては十分だからな…実数が確保できれば移行係数に拘る意味はあるまい」

「部隊を引き下げる?拘る意味がない…だと?
司令部が俺たちを見捨てたのか?!」

「仕方ないな」
「あゝ仕方ないな」





「仕方なくねえよ!!」


  1. 2016/12/25(日) 00:00:00|
  2. お話

迷ひ道

ふらりふらりと闇の中
僕は何処へ行くのでせう
ふらふらふらりと風の中
移ろふばかりの此の世の果てに
僕は何を探してゐるのでせう

ふらりふらりと尾根道を
僕は何処へ行くのでせう
ふらふらふらりと風任せ
当てなき此の世の旅なれど
僕は何を信じてゐるのでせう

いつか何処かに辿り着けると信じてゐるのでせうか
それは
帰れる処でせうか
居場所でせうか
安息の地でせうか

あゝさう云ふ物は何処にもないとわかつてゐるのです
僕が愚かな夢を見てゐるだけなのだとわかつてゐるのです

僕には何もないのだと

それでも僕は
ふらりふらりと光を尋ね
ふらふらふらりと深淵を覗き
何を探してゐるのでせう
何処へ帰らうと云ふのでせう…



  1. 2016/12/21(水) 22:12:41|
  2. 詩想

昏迷

何もわからなくなつた
喜怒哀楽も
生きる事も死ぬ事も

人間が何で
生命(いのち)が何かも

僕が何で
此処が何処で
今がいつなのかも

光も闇も
神も世界も

何一つわからない
微塵もわからない

存在宇宙と云ふ何かがあるばかりで
或いは
移ろふ僕と云ふ何かがあるばかりで

ただゐるだけで
でもそれが本当にゐるのかどうかもわからなくて

僕は何も知らない

  1. 2016/12/18(日) 10:31:20|
  2. 詩想

無何有の住人

光の住人
闇の住人
どちらにも住めない僕は
たぶん無意味な無何有の住人

此の世の住人
彼の世の住人
どちらにも親しめない僕は
たぶん空虚な虚空の住人

さう云ふ僕は存在世界のアンチテーゼ
それが僕のレーゾンデートル

何も不都合はないけれど
別に哀しい事もないけれど
君の世界に触れられないのが少し寂しい

  1. 2016/12/15(木) 19:03:01|
  2. 詩想

夢のまた夢

うつらうつらと夢を見て
うすらと瞼(まぶた)を開けぬれば
此の世を夢とも現(うつつ)とも
言い得ぬ事の不確かさ

昨日の現は今日の夢
今日の現は明日の夢
くるくるくるりと巡る世の
儚さ何に例へよう
咲く花散る花木洩れ陽に


ふらりふらりと世を歩き
うすらと世相を眺むれば
此の世は何処まで続くのか
知り得ぬ我が身の力無さ

記憶の欠片は霧の中
埋もれて錆びれて塵の中
からからからりと廻る世の
虚しさ何に託せよう
吹く風湧く雲空の色


移ろふ影に死を思ひ
此の世の果てを願へども
彼の世に望む事も無く
過ぎ往く道に立ち止る

昔々に見た夢は
青く澄んだ水の夢
彼の世の果ての海の夢
影無き世界に射す光
生命(いのち)の海の愛しさを
何に例へて詠はうか
何に託して残さうか
歌ひ舞ひ踊る日月の光に例へ
飛ぶ者這う者駆ける者
揺らぎ佇みそよぐ者
天地に満ちよと祈りに託して

  1. 2016/12/04(日) 06:29:36|
  2. 詩のやうな

わからないこと

わからないこと

そらのあを
やまのかぜ
あめのにほひ

ゆきのしろ
ひのひかり
はなのいろ

あなたのことばのなつかしさ

  1. 2016/11/26(土) 09:12:11|
  2. 詩のやうな

愚者の祈り

祓へ給へ
清め給へ
幸魂
奇魂
惟神
守り給へ
幸へ給へ

はらへたまへ
きよめたまへ

さきみたま
くしみたま
かむながら
まもりたまへ
さきはへたまへ


祓へ給へ
清め給へ

私を


守り給へ
幸へ給へ

あなたを


祓へ給へ
清め給へ

此の國を


守り給へ
幸へ給へ

この世界を


祓へ給へ
清め給へ
幸魂
奇魂
惟神
守り給へ
幸へ給へ

全ての全てを


  1. 2016/11/08(火) 21:58:05|
  2. 空言

僕は誰だい?

成れの果ては虚ろなペシミスト
思考の末に陽気なニヒリスト
さうしていつまで経つても夢を見てゐるアナキスト

「君は誰だい?」

夜道をトボトボ歩く者
白い街灯は間もなく消える

さうして蒼い空に世を忘れ
宇宙の果てに嗤ふだらう

「ならば君は何処から来た?」

何処からも

「何処へ往く?」

何処も彼処も在りはしない…

  1. 2016/11/06(日) 22:16:14|
  2. 詩想

ゴルディアスの結び目

どうにもかうにも
僕の心は手に負へない

ゴルディアスの結び目のやうに
きつく固く結ばれて
どうにもかうにも解きほぐせない
どれほど刃を突き立てても断ち切れない

その結び目が全てを拒絶するのだ
人間の全てを
世界の全てを 
僕から断ち切らうとするのだ

冷ややかに纏はり付く闇となつて
僕の思ひを侵蝕し
僕の世界を絞め殺さうとする

僕は為す術も無く
侵蝕され息絶えてゆく僕の思ひを見てゐる


さうして全ての係累が断ち切られてゆく
僕に何ができると云ふのだらう


さうなのだ…
この結び目は僕なのだ

解きほぐせるわけがない
刃で断ち切れるわけもない

僕はただ
僕が僕を呑み込み消し去つてしまふのを
見てゐることしか出来ない


  1. 2016/10/25(火) 20:24:36|
  2. 詩想

散りゆく季節


彼方を見つめ
生と死を 遥か後ろに
三千世界の尽き果てる処
虚空の淵に立ち 途方に暮れてゐる

さうして足元の小石に蹴躓いて 僕は目を覚ますのだ

冷たい雨が通り過ぎ
金木犀は 疾うに散り失せ
沈丁花の まだ咲く筈も無く
流れゆく人波の中で
僕は居場所を見失ふ

僕と云ふ何かは
僕と云ふカタチを地上で再構成することに失敗し
陽炎のやうに彷徨つてゐる

どうして僕に居場所などあるだらう
どうして僕に帰る場所などあるだらう

どうして僕と云ふ何かの存在する余地があると云ふのだらう

僕と云ふ何かが居ないのなら
安息の地など 有る筈もなく

煌めき輝く世界は 再び 僕の手を擦り抜ける

さうして僕は 手を伸ばす事すらせずに見つめてゐるのだ

この町並みも
この喧騒も
馴れ親しんだ人々も
遠く遠く 触れる事の叶ひ得ぬまでに遠く
霞と消えゆくのを見つめてゐるのだ

僕の前には唯 茫漠たる虚空が開け

僕は塵へと還元され

風に溶け

虚空へと消える…


  1. 2016/10/13(木) 21:40:49|
  2. 詩想

輪廻


僕は死んだら安らげますか
それとも 安らぐ僕も消えるのですか

なればどんなに素敵なことでせう…


僕は死んだら消えるのですか
それともまた 生まれ変はるのですか
見知らぬ土地に
見知らぬ僕が生まれるのですか

遥かな昔 中国の城塞都市に生まれたやうに
大航海時代 西班牙の港町に生まれたやうに

さうしてまた死ぬのですか
一つ前の生で兵士だつた時のやうに
頭を撃たれて死ぬのですか
一人追い詰められて 殺されるのですか

僕は いつまで続ければいいのでせう
一体 どうして続けねばならないのでせう

僕はもう 還りたいのです…


繰り返される輪廻の合間のいつかの時に 
僕は懐かしい光の海を見てゐたんだ

あれはいつの生だつたらう
吐蕃の寺院で暮らしてゐた時でせうか

あれが僕の還る処なのだと
僕は生まれる度に
あの光を思ひ出して 泣くでせう

幾度生まれ変はり 死に変はり どのやうな生を繰り返さうとも
僕はあの光に還りたくて 泣くのでせう…


  1. 2016/10/04(火) 21:41:44|
  2. 詩のやうな

深淵


僕は 深淵を覗き込んでゐるんだ

世界に背を向けて
屈み込んで 深淵を覗き込んでゐるんだ

振り返れば いろんな何かが見えるんだらう
だつて其処は世界だもの いろんな何かが在るんだらう

懐かしい何かが 少しだけ
金木犀の香り それから沈丁花の香り

愛しい何かが 幽かに少し
たぶんもう 全部思ひ出

それから理不尽な何かが 腐るほど
どうでもいい雑多な何かが 山のやうに
これらはいつまで経つても無くならない

でも 僕はもう そんな世界なんて知らない
世界なんて忘れてしまつた

だから 振り向かないで 僕は深淵を覗き込む

此の闇
深く 何処までも透明に澄んだ 闇
此の闇の奥に 僕はそのうち 溶けて消えるだらう

世界は浅く 薄く 希薄になつて 消えてしまふ



あゝ 誰だらう 
後ろで呼んでゐる気がするけれど

…たぶん気のせゐだらう


  1. 2016/10/02(日) 20:45:10|
  2. 詩想

君を想ふ

遠く

君に 遠く

この手は届かなくて
指先の触れることも無い
さうして 言の葉の届く事も無く

哀しいくらゐ
遠くに 君を感じてゐる

実はね 
この間 君に 会ひに行かうかと思つたんだ
思つた事がもう 全然僕らしくもなかつたのだけど 
行かうかどうしようかと 迷つてゐたんだ

少し 雨の降つてゐた日だつたと思ふ
僕は あの半端な雨のやうに迷つてゐて
腹を空かせた猫のやうに迷つてゐて

でも どうしても行けなかつた

ダメなんだ
僕は 僕の世界でしか 生きられないから
僕は 君の世界に触れることすら出来ないんだ

君は人の中で 生きていくでせう
其処が君の世界だから

でも僕は人の中では生きていけないから
僕は冷たい虚無の宇宙にしか 生きられないから

だから 君と僕の接点は 何処にもないんだ
幾ら探しても 何処にも全然 ないんだ


この手は届かなくて
指先の触れることも無い
さうして 言の葉の届く事も無く

哀しいくらゐ
遠くに 君を感じてゐる


でも それなのに
それでも少し たぶん気のせいなのだけれど
幽かに少し
君の心が触れたやうな気がしたんだ

たぶん それで 
それだけで 僕には十分なんだ

だから僕は 遠くで君を想つてゐよう

本当は君は 僕に気づいてさへゐないのかもしれない
さうして僕もそのうち 君を忘れてしまふだらう

それでも今は 

遠く 遠くで君を想つてゐよう

  1. 2016/10/01(土) 22:46:35|
  2. 詩のやうな

カタチ

私と云ふ カタチ
過ぎて往く カタチ
世界と云ふ カタチ

カタチ
カタチ
カタチ

カタチばかりがカタカタと
移ろひ往きて 過ぎ往きて

歯車のやうに
哲学のやうに
カタカタと
カタカタと

変はり往きて 消え往きて
生まれ往きて 死に往きて

生命のやうに



宇宙と云ふ カタチ

神と云ふ カタチ?


あなたと云ふ カタチ


  1. 2016/09/19(月) 09:21:27|
  2. 詩のやうな

驟雨

雲の流れが 速い
風が雨の匂ひを運んでくる
僕は 何処まで来たのだらう…

いつもいつも 掴まうとする端から
何もかもが
僕の手を擦り抜けていつた

一人 草原の真ん中にポツンと立ち尽くし
躊躇つてゐる

帰れる世界など 疾うに消えてしまつたとわかつてゐるのに
躊躇ふなどと 愚かな話だとわかりきつてゐるのに

遠くの樹々が 狂つたやうに 風に揺らぎ
草々は波打ち 刻々と色を変えて往く

今度こそ しつかりと手にしたと思つてゐたのに
気付くと指の隙間から 零れ落ちて
僕の手は 空を握り締めてゐた

何故なのだらう
いつもいつも 僕には何も 残らない

雨足が近づき 通り過ぎて往く
白い飛沫に 世界が沈む
あゝ 僕と云ふものを このまま流し去つてしまへば良いものを

一体 僕は何を望んでゐたのだらう
何がどうなれば 僕は満足してゐたのだらう

渦巻く風
纏はり付く 土の匂ひ
振り切れない 昔日の思ひ

虚無の中で 僕は何故 

いつもいつも

何かを手にしたいなどと云ふウソを 吐いてゐたのだらう
望んでもゐない事を 望んでゐるフリを してゐたのだらう



雨は遠ざかり 彼方の峰々に 陽が射し始めてゐた

日の沈み切るまでに もう少し 先へ進める

僕は一人で越えて往かねばならないのだらう
あの峰の向う側へ…


  1. 2016/09/09(金) 19:29:36|
  2. 詩のやうな

と或る夏の日

陽射しの強い道を歩き続けて
僕は何だかもう 疲れてしまつて
ふと 自分が今にも泣き出しさうな 
そんな顔をしてゐるやうな気がして
笑つてみようとするのだけれど
何だかもう あまりうまくも笑へない

僕は何を言へばいいのだらう
僕は何を伝へればいいのだらう

何もわからないから
僕は俯いて黙り込んでしまふ

街角の公園の樹々は
くつきりとした影を地に描いてゐた

強い光は 濃い影を生むのだらうか
生を生として強烈に生きるほどに
死もまた その者に深く刻まれるのだらうか

存在と云ふものを 見極めようとするほどに
虚無は 深みを増し 一切を塗り潰す

蝉の亡骸は いづれ踏まれて 粉々になるのだらう
さうして誰にも気づかれずに 土に返るのだらう


  1. 2016/09/02(金) 20:56:41|
  2. 詩のやうな

心臓

凍りついた心臓は
溶ければまた
脈打ち始めると思っていた

熱き血が流れ
全てが元通りになると 信じていた
優しさも労わりも
安らぎも愛しさも
慈しみも
元に戻ると そう信じ込んでいた


けれども凍りついた心臓が
溶けた後には


…何もなくなっていた

残ったのは 虚空


凍りついた心臓は
溶けて
跡形も無く 消えてしまった


残ったのは 虚空

そこはもう 人間の住処ではない

空空漠漠たる 虚空

もう 手の施しようもない…



  1. 2016/04/01(金) 21:11:29|
  2. 空言

過剰

私は何を求めてる?
昨日のホントは今日のウソで
今日のホントが明日のウソで
私の気分はコロコロ変わる
私は私を信じれない

私は何を探してる?
昨日のウソは今日のホントで
今日のウソが明日のホントで
私の心は右往左往
何を信じて生きればいい?

いつの間にやらすべてがウソで
何をしようとウソだらけ

ただただ死だけがホントに見えて 私の隣で微笑んで
ただただ生は 遠くに見えて 霞んで見えて 私の手には届かない

あぁ神様
不足を申せと仰せにならずに
ただただ過剰を申せと仰せになりませ
されば私は申しましょう

私という存在が 過剰なのだと


  1. 2016/04/01(金) 21:07:00|
  2. 詩想

神ノ記

古ニ神アリ
姓ハ 真
名ヲ 無
字ヲ 虚空(うつろ)ト云フ

正伝ニ傳フ処
或時 神 戯レニ 世界ヲ創ル
ソノ数 三千ト云フ
異聞アリテ
世界ノ数 三億トモ無数トモ傳フ

神ハ世界ニ生命(いのち)ヲ創リ 自由ヲ与ヘ
見守リ 哀シミ 慈シンダト云フ

マタ異端ノ書ニ傳フ
神ハ神二飽イテ 自身ヲ世界二変エタト
神ハ神自身ヲ忘却シ
世界ノ内ニ 生命(いのち)トシテ棲ミタリ

世界ニ飽イタ者
倦ンダ者
世界ヲ厭ウタ者
再ビ神ヲ想起シ 神ニ回帰シタト云フ

(まこと)ノ処ハ 定カナラズ




  1. 2015/12/14(月) 19:00:30|
  2. 空言

雲海

雲の下に何があるのかなどと
雲の下で何が起きているのかなどと
思い煩う必要はない

ただ 雲の上 遥か彼方に
星々を見上げることさえ出来るなら


何故なれば おまえの住処は
もはや下界にはないのだから

  1. 2015/12/12(土) 21:57:08|
  2. 詩想

永劫回帰

進めども進めども 何処へも行けぬ

歩めども歩めども 何処へも着けぬ

私たちは回し車の中を駆け続ける鼠のやうで

いつまでもいつまでも まるで何処かへ行けるつもりで

何処までも何処までも 進んでゐるつもりで

走り続けて走り続けて 草臥れ果てて

私たちは…

  1. 2015/12/12(土) 21:52:57|
  2. 空言

虚無へ

みんなは遊びで忙しい
みんなは政治で騒がしい
みんなは仕事で慌ただしい

だから僕は
一人で 虚無を覗いていよう
此の漆黒を 凝視していよう


誰もが移ろう世界に夢中だから
誰もが消えゆく世界に真剣だから
誰もが僕を忘れるだろう

だから僕は
一人で 虚無に踏み込もう
此の深淵に
光を遠く 後にして
静かに
静かに
身を沈めていこう

深く

深く


深く…


  1. 2015/12/12(土) 21:41:37|
  2. 詩想

無力





季節は過ぎて 行くけれど
私は独り 為す術もなく
独り 佇み
独り 空を見上げ

独り 消える

  1. 2015/12/12(土) 21:23:43|
  2. 空言
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