絵空言 お話

絵空言




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変容

或る晴れた暖かな日の事です
キョムは久しぶりに日の下を散歩する事にしました
何故かつて?
それはたださう云ふ気分になつたからとしか云へません
外に出るのは何年ぶりでせうか

心も軽く草原の道を歩いてゐるとセイが道端の石に腰かけてゐました
セイは酷く陰鬱な顔をしてゐてキョムが話しかけようと近づくとキョムを見上げて云ふのです

「そろそろ来る頃だと思つてゐたよ
君はどうして此処に来たのか知つてゐるかい
僕が呼んだのだよ
あゝ僕は君を呼ぶべきではなかつた
呼ぶつもりすらなかつたのに
何もかもが終つてしまつた

…君はシに似てゐるね
君に僕が殺せるかい?」

云ふや否やセイは立ち上がると論理でキョムを焼き尽くさうとしました
慌てたキョムが咄嗟にセイの意味を剥がしてしまつたのでセイは翳(かす)み始め
さうして消えてしまひました
絶望と驚愕の表情を最期に
まるで初めからゐなかつたかのやうに消えてしまひました

「何だか取り返しのつかない事をしてしまつたやうな気がする
何も慌てる事はなかつたのに
論理で私を焼き滅ぼすなんて出来る訳がないのだから」

キョムが呟きます

「何だか硝子細工を踏んで壊してしまつた気分だ…」

青い空に鳥が鳴きとても気持ちのいい日です
軽かつた足取りが少し重くなつたやうな気がするけれどキョムは歩き続けました

暫(しばら)く行くと道の真ん中でシが仁王立ちしてキョムを睨みつけてゐます

「見てゐたぞ
おまへセイを殺したな」

「仕方ないのだよ
セイがいきなり」

「セイ如きにおまへを殺せるわけがないだらう
おまへは何もせずに黙つて帰ればよかつたのだ
セイを殺すのは俺でなくてはならなかつたのに何故おまへが殺すのだ
おまへは地上に出てくるべきではなかつた
陽の光を浴びるべきではなかつた
永遠に地の底を這いずり回つてゐればよかつたのだ
化物め

…おまへは俺に似てゐるな
おまへがゐると俺の影が薄くなるから消えてくれないか」

さう云ふや否やシはキョムに喰いつきキョムを呑み込みました
呑み込まれたキョムは慌ててシの腹を裂き其処から出て逆にシを呑み込みました
シは絶望と驚愕の表情を浮かべたままキョムに呑み込まれていきました
シはキョムを裂く事ができずにそのままキョムの中に消えました

「あゝあゝ今日は何と云ふ日だらう
私は一体何をしてしまつたのだらう
セイもシもゐなくなつてしまつた
私が殺してしまつた
あゝあゝあゝもう二度と返らない
セイにもシにも二度と会えない
元には戻らないのだ」

キョムは立ち止まり空を見上げて泣きました

「セイもシも私がゐなければ今まで通りに過ごせてゐたのに
私はどうすればよかつたのだらう
このやうな事になつてしまふとは思ひもしなかつた
あのまま地の底で眠り続けてゐればよかつたのだらうか
でも私を呼び起こしたのが本当にセイだつたとするなら
何もかもが必然なのだらうか
私にはわからない」

風は緩やかに纏はりつき
陽射しは穏やかに全てを包み込んでゐました

「私はセイとシの影だと思つてゐたのだけど
どちらも私が殺してしまつた
私がキョムなのは彼らが私をそのやうに定めてゐたからならば
今の私は何なのだらう」

キョムはため息を吐いて草叢(くさむら)に寝転びました
青い空に白い雲がゆるりと流れて往きます
目を閉じれば暖かな風が頬を撫でていきます

キョムはすでにキョムではなく
全く別の何かへと変はり始めてゐるやうでした


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  1. 2017/03/07(火) 21:01:00|
  2. お話

混線

「α(アルファ)聞こえるか?此方 Ω(オメガ) α 応答できるか?」
「此方 α…良く聞こえない…至急…」

「調子はどうだね」
「ダメだな」
「さうかね」
「それだけかよ」
「おまへさんはいつもダメだなしか言はん」
「ダメなもんはダメだ」

「混線してゐるのか?α ダメと云ふのは何だ?状況を報告せよ!」

「申請書は出したのかね」
「いや…無駄だらう」
「許可は出ると思ふがね」
「上は甘いからな 許可はすぐ下りるだらうし志願者もゐるだらうが…
計画自体が無駄な気がしてならん」
「さうかね」

「いや無駄ぢやない…Ω 支援要請する すぐに空軍を送れ…まだ間に合う 座標は…」

「今まで何人送つたと思ふ?それで此のザマだ」
「諦めるのかね もう一度やつてみてはどうかね」
「…おまへはどうしてさうも楽観的なのかね
現実を見てゐないのかね」
「見てゐるさ
…迫害 黙殺 取り違ひに稚拙な模倣
さう云ふのばかりだといふのだらう?


「α 何を云つてゐる?送つたと云ふのは何だ?
おい勝手に諦めるな!状況はどうなつてゐる?」

「志願者たちは実際よくやつてくれたよ
文句ひとつ云はずに黙々と救世主を演じてくれたからね
にも関はらず効果はさつぱりだ 何故だと思ふ」
「受け手の問題だらう」
「分かつてゐるぢやないか」

「Ω 何も分かつてないぞ…至急援軍を要請する 至急だ 今すぐだ!」

「そもそもそれが目的で此の惑星に転生してきてゐる奴自体が少ないからね
争ふばかりで関心も何もないのは仕方ないだらう」
「でもあれだぜ 大枠の仕組は上からきてゐるから全ての者に影響するのだぜ
でなければこんな計画は要らんだらう」
「なのにもう申請はしないのだね」
「あゝさうだな…前回ので打ち切りだ」

「おい打ち切るとは何だ それは撤退命令か?」

「ふむ…本気で計画を破棄するのか…全滅するぞ」
「いや破棄ぢやない…変更だ」
「でも救世主は送らないのだらう?」
「送らないが前任者たちが文字に種を仕込んでおいたからな
その種が芽吹くやうに確率を操作する」

「破棄?全滅?いやいやいや全滅してない どう云ふ事だ?
何があつた?
作戦を変更するのか?指示は? Ω 応答せよ!」

「ふむ…外から送り込むのではなく内から芽吹かせて育てるのか」
「さう云ふ事だ…救世主の影響力を使はうと思つてゐたがそれがダメなら一人ひとりに直接働きかける他あるまい」
「不確実な多数よりも確実な少数を選ぶのか 最後の賭けだな」
「その少数が確実なのかも怪しいけどな 他に手を思ひつかん」

「他に手が無い?Ω どうした?支援さえあれば取り返せる…」

「上は何か云つてゐるのか」
全面的に協力すると云つてゐたよ
まあ期待値の大幅な引き下げは避けられないね」
「次の文明に繋がりさへすれば計画としては十分だからな…実数が確保できれば移行係数に拘る意味はあるまい」

「部隊を引き下げる?拘る意味がない…だと?
司令部が俺たちを見捨てたのか?!」

「仕方ないな」
「あゝ仕方ないな」





「仕方なくねえよ!!」


  1. 2016/12/25(日) 00:00:00|
  2. お話

死にゆく者たち

「あのさ、ちょっといいか?」
「あ?」
「なんかさ…変じゃね?」
「何がよ?」
「いや…何がっつーかさ…」
「わけわかんね」

「俺たちさ、いつからこうしてたっけ」
「はぁ?生まれた時からに決まってんだろが」
「まぁ、そうなんだけどさ、よくよく思い出してみるとさ、一度記憶が途切れてんだよね」
「んー、そうだっけか?」
「あー、わかるわかる、一度おかしなことがあって、それから何か変なんだよね」
「そうそう、前にすごく怖いことがあったような気がしてその後記憶がおかしいんだ」
「何だろう?」
「でも…とりあえず不都合ないからこれでいいのかなっと」
「そうだよね」
「わけわかんね」

「俺たちさ、何処に向かってんのかな」
「そりゃーあたしらは旅を続ける宿命だからさ、旅を続けるまでさ。
親父もお袋もそのまた親父もお袋も、ずっと旅を続けてきたんだ。
だからあたしらも旅を続ける。それだけだろ」
「そうなんだけどさ…」
「なんだよ、どうしたんだよ。
行き先なんて決まってるじゃないか。
俺らは季節と共に旅を続ける。
そんなことも忘れちまったとかやめてくれよ?
何か変な気分になることだってあるだろうけどさ、旅を続けるだけだろ?」
「うんうん、そうだよ、私らまだ子供も残してないじゃん。
旅はこれからだよ」
「旅が終わるのは、あたしらが死ぬ時さ。
それまでは終らないよ、絶対に」
「おまいら大げさすぎだろ」

「匂いが変わらない」
「それが何か?」
「いや…昔は季節によって変わったような気がするんだよ」
「確かにな…」

「いつの間にか増えたな…」
「聞いてみたんだよ、あいつらに」
「何を」
「なんで俺たちに合流したのかって」
「で?」
「それがさ、何か混乱している奴ばっかでさ…答になってねぇの」
「うーん…どういうことなんだろう…」

「…やっぱり変だ」
「またおまえか、うるせぇぞ」
「空を見ろよ、空を。
俺たち先に進むことばっかりに気を取られて空なんか見ないけど。
でも見てみろよ」
「はぁ?」
「俺、見たんだよ、空を。狂ってるぞ。
空がないんだ…ちょっと浮上して見て来いよ」
「うわぁああああ、何だこれは、どうなってるんだこれは」
「空だけじゃない、底もおかしい。
いつまでたっても同じままだし…」
「浅すぎる」
「あぁ…やっぱりそうか。僕が狂ってるわけじゃなかったんだ。
気にしないようにしてきたんだけど。
狂ってるのは僕らのいる場所なんだ」
「あたしら、何処に入り込んじまったんだろ…」
「なぁ、これは本当に…旅なのかな」
「やめて!私たちはいままでどおりに旅を続ける、それでいいじゃない!」
「騙されているのかもしれない」
「記憶が途切れた時に何かあったんだろう…」
「捕まって…閉じ込められた?」
「でもあたしたちずっと泳いでるよ?
閉じ込められたら、そんなの無理でしょ。
食べ物だってあるし」
「いや…もしも同じところを廻り続けているとしたら?
食べ物も…与えられているとしたら?」
「そんな…」
「あああぁあ、やっぱりダメだ。両側が壁だよ、これ。
此処は俺らの生まれた場所じゃない。
完全な閉鎖空間だよ、これ。」
「あぁ…なんてこったい…此処は何処なんだよ…」
「俺たちは同じところをぐるぐる廻ってただけなんだ」
「だからおかしかったのね」
「旅でも何でもないじゃんか…」
「悪夢だな」
「あたしらの旅がもう終わってたなら、あたしらの存在理由って…」


「何もないな」



「ごめん。あたしは耐えられない」
「待てよ、まだ決まったわけじゃ、あ、ちくしょう壁に自分の頭叩きつけやがった」
「決まったわけじゃないって、閉じ込められてるのは確かだろう?逃げ出せる見込みがないのも確かだろう?俺も逝くよ」
「おいふざけんなおまえ、おまえが騒ぎ始めたからこうなったんだぞ?逃げるなよ、おい待て…クソが」
「あいつが騒がなくてもいずれみんな気づいたろ。
私もやっぱりこのまま続けるのは無理かな…」
「って、おまいら決断早すぎだろ。
サクサク死んでんじゃねぇよ、ってまた死にやがった」
「ねぇ、なんで死ぬのよ、食べ物あるじゃない。
生きようと思えば生きられるのよ?
ねぇ、死ぬのやめてよお願いだから、死ななくたっていいじゃない!」
「そうなの?此処から生きて出られるとでも思ってるの?絶対的な幽閉の中で生き続けることにどんな意味があるの?」
「意味なんてなくたっていいじゃない!生きていればそれだけでいいのよ!」
「意味というのは、希望なんだよ。
意味の完全な喪失は、完全な絶望なんだ。
意味を失っても生きていられるような奴はね、意味を感じることもないような薄っぺらな生を送ってきた奴と、完全な絶望を通り過ぎてきた奴だけだ。
私はどちらでもないからね。…じゃあ、さようなら」

「知らなかった時は希望に満ちてたのにな。
わかった途端にこれかよ。
状況は何も変わってないのにな」
「おまえ…何か知ってんの?」
「私らを閉じ込めたのは、おそらく陸棲の二足歩行生物だろう。
仲間は奴らに大勢殺されてるね。
私らの閉じ込められた理由は別な処にあるんだと思うが。
たぶん、研究か鑑賞か…
奴らは此処を水槽って呼んでるようだ。
わかったところでどうにもならんけどな」
「ここから抜け出せる可能性はあるのかな?」
「…皆無、かと」
「そうか…知らない方が良かったのかな」
「それはなんとも」
「あぁあぁあぁ、みんな気づいちゃったじゃない、みんな死んでいくじゃない、昨日まではあんなに希望に満ちてたのに。
ねぇ、あなたたちは死なないわよね?わたしだけになるの、イヤよ?」
「おまえはどうすんの?」
「さぁ?」
「なんか死にそびれちまったな…」

・・・・・・・。

「なぁ、俺らは死ぬべきなのかな?」
「そんなことはないだろう」
「生きるべきだと?同じところを延々と回り続けるような、馬鹿げた生を」
「生きねばならないってこともないだろう」
「じゃあ、死んでもいいのかい」
「いいんだろう」
「わたしは生きるべきだと思うわ。
生きている以上は、死が訪れるまで生きる努力をすべきだと思う」
「なら、生きればいいんだろう」
「なんかあなた死んでるみたい」
「どうでもいいさ」
「おいおい、なんで生きる努力をすべきなんだ?
この幽閉が悪夢と同じだとは思わないのか?生きて一体何があるってんだ?
悪夢なら覚めるだけだろ。
生きてんなら死ぬだけじゃねぇか」
「そんなのは生きてみないとわからないじゃない。
わたしは生きるのが好きだし、死ぬのが怖い。
だからみんなみたいには死ねない。
わたしだけになっても、わたしは死ねないと思う」

「意味を失っても生きていられるような奴は、薄っぺらな奴と、完全な絶望を通り越した奴だけだってのはホントかな」
「どうだろうね」
「俺は別に濃く生きてきたつもりはないけどさ、薄っぺらとか言われたらムカつくね」
「図星だと怒るってのはよくある話だ」
「おい、もう一度言ってみろ。
俺が薄っぺらな奴だってのかよ」
「さぁ?」
「ごまかすな」
「他人がどう指摘しようと関係ないだろう。
要は、おまえがおまえをどう思っているかがすべてだろう?
自己欺瞞があろうとなかろうと、おまえにとっては、今思っているおまえがすべてだろう?」
「おまえは薄っぺらとか言われてムカつかないのかよ」
「そいつが誰かに向かって 薄っぺら と言う奴だってことが明らかになっただけじゃないのか。
わざわざムカつくのは労力の無駄だと思うが」
「どうも調子が狂うな…」

「おまえが薄っぺらなのかどうかは知らないが、死んだ奴が絶望に耐えられなかったのは確かだろう…絶望を超えて行けなかったのは確かだろう」
「絶望を超える?この状況で希望を見ろと?何処に希望があるんだよ」
「そんなの生きてみなきゃわからないじゃない」
「おまえは黙ってろ。
いいか?万に一つもこの水槽とやらから抜け出せる見込みはないんだぜ?
わざわざ生きなくたってわかるだろうが。
死ぬまでの飼い殺しだ。
生き続けることにどんな希望がある?」
「希望はない」
「じゃあ何だよ、絶望を超えるってのは」
「希望も超えるということだ」
「は?」
「希望とは想念ではないのか?
その想念が阻害される事が絶望なのではないか?
一切の希望がなければ、一切の絶望はない」

「そんなの卑怯よ、そんなの全然生きてないじゃない、ただの死体じゃない!
生きるってのは希望と絶望の狭間を揺れ動くことでしょう?
希望も絶望もないんだったら、そんなのは生きてるなんて言えないわ!」
「だからさ、今の俺らにはその希望がないんだわ。
だから死の妥当性を考えてんだろうが」
「希望がないとは限らないじゃない!」
「いやいやいや、現実を見ろって」
「希望を待ち続けるのか、絶望に死ぬか、希望も絶望も捨てるのか。
好きにすればいいのだろう」
「やっぱりあなた死んでるようにしか見えないわ」
「私は生きることを語っているわけではないからね。
生の側にいる君から見れば死にも見えるだろう。」
「あなたの言ってることはただの屁理屈よ。
全然理解できない」
「そう見えるなら君にとってはそうなんだろう。
…私には君の言う希望というモノが何なのか全く理解できないが」

「俺は絶望を超えて行けるのかな」
「それはおまえ次第だろう」
「あんたはどうなんだ?」
「さぁ?」

  1. 2015/02/16(月) 20:34:35|
  2. お話

年末の木花咲耶姫命

年明けに初詣に行くと、混んでる。
なので年末だが初詣に行ってきた。
いや、これでは初詣とは言わないな…
まぁ、とにかく参拝してきた。

多摩川浅間神社。
御祭神は木花咲耶姫命(コノハナサクヤヒメノミコト)。
天気の良い日であったが境内に人影もなく、機械仕掛けの笙の音が淡々と流れている。
機械仕掛けであっても、嫌いじゃないけどね。
で、いつものように手水舎で手を清め、忘れないように先に末社に挨拶した。
順序としては逆なのか?
まぁ、あんまり細かいことに拘る神様でもあるまい…


拝殿に伺うと木花咲耶姫は本殿から出て来られていて何か考え事をしておられるようだった。

「ご機嫌いかがですか、姫神様」
「なんだ、おまえか。何用だ」
「そりゃー勿論、姫神様のご機嫌伺いに」
「ほほぅ、ご機嫌伺いとな。おまえが来たらあたしの機嫌がよくなるとでも思っておるのか」
「いえ、そんな」
「むしろ悪くなるかもしれんな」
「姫、何かあったんですか」
「おまえの知ったことじゃーないんだよ」
「なんかホントに怒ってます?」
「いや」
「とりあえず参拝させてください」
「勝手にしろ」

(えーっと、二礼二拍手一拝っと…)

「いや、ひふみ祝詞は奏上しないでよいぞ」
「あ、姫、先にそれを言われてしまうと」
「おまえのは聞き飽きた」
「じゃあどうすればいいんですか」
「おいおいおい、そんなのは~てめえで考えてくださいなっと」
「はい。
 ・・・・・・・・・」
「あはははは、沈黙か、無を捧げてくれるのか…ん、これは…違うな…」
「・・・・・・・・・」
「きさまぁ、舐めてんのか?このあたしに虚無を流し込もうなどと100万年早いわ、虚無で遊ぶってのはこうやるんだよ!倍にして返してやろう!」
「ぬぁあああ、くぅう…まさか倍返しにされるとは…頭が割れるぅ…」
「ちっ、下手な芝居はやめろ、この程度の虚無で弾け飛ぶような頭でもないだろうが」
「すみません」

「おまえさぁ、あたしの気を紛らわせてくれようとするのはありがたいけど、無理すんな。
ヒト並みに願い事でもしてさっさと帰れ。
そういやおまえの願い事って聞いたことないな。
たまには願い事でもしてけ。気が向いたら叶えてやらんこともないぞ?ん?金か?出世か?お嫁さんか?おまえに結婚は向いてなさそうだけどな、ははは」
「願い事…ですか。えーっと…んーっと…」
「うお、まぢか。ホントに困ってんのか、おまえ。
前から思ってたけどつくづく変な奴だな…願い事もないのか。何でもいいから適当に言っとけよ」
「う、うむ。じゃあよくわかんないから、神様の御心が為されますように!」
「・・・・・・・。
たまにな…そう願っていく奴がいるが。いいんだな、それで」
「はい」
「ほんとーに、いいんだな?御心の内容は問わないんだな?あたしの勝手にしていいんだな?」
「…はい」
「よーし、よーし、よーし。あたしは念を押したからな。
それでおまえは了承したんだからな。
何が起きようと一切を受け入れるってことだぞ?ふはははははは。それが神を信ずるということぞ。はは、決心がついたぞ。解決解決♪
ん、おまえはもう帰ってよいぞ?」
「はい…」

姫神様は嬉しそうに本殿へと戻って行かれた。

私は一人残されて呆然とする。
ちょっと待て…何が解決なんだ?
そういえば私が来たとき、姫神様は何かお考えになっておられたな…
それが解決したと?
一体、何をお考えになっておられたのか。何の決心がついたのだろう。

境内には相変わらず誰もいない。
空は青く、風は冷たく、世界は何も変わっていない筈だった。

「何が起きようと一切を受け入れるってことだぞ?」

神様の事だから、悪いようにはなさらないだろう…私はそう思う。
ヒトの視線と神様の視線が同じだとは限らないけれども…きっと巡り巡って悪いようにはなさらないだろう…


でも、もしかしたら私はこう願うべきだったのかもしれない。

「今年が平和だったと言われた最後の年になりませんように…」と。

  1. 2014/12/30(火) 18:00:00|
  2. お話

とある審議会の定例議事録

ちょっと書いてみた。
前提としてヒトの会話ではないので、非人間的でもあしからず。
読んで不快になる可能性もなくもないのでそのつもりで。

・・・・・・・・・。
辺境領域開発審議会:惑星管理委員会と生物管理委員会を包括する部署。
惑星管理委員会:各惑星における生態系の導入、管理を主な任務とする。
生物管理委員会:各惑星における支配種のルーシュ生産、精製、運用を任務とする。


辺境領域開発審議会(以下、審議会)
「定例議会を始める。優先する議題がある場合は申し出ていただきたい。」

惑星管理委員会
「最近、惑星δ(デルタ)における生態系の崩壊が著しい件を、議題として提出する。」

生物管理委員会
「…異議なし。」

審議会
「了承した。」

惑星管理委員会
「惑星δにおける生態系の加速的崩壊の原因は現生支配種による惑星規模の商工業化であることが明確になっている。
このままでは、惑星規模の緻密な生態系が根本から崩壊し、再構成が著しく困難、若しくは不可能になる恐れがある。
早急に干渉する許可を願いたい。」

審議会
「具体的な干渉内容は。」

惑星管理委員会
「支配種の頭数の大幅な削減を希望する。」

審議会
「惑星δにおける支配種の管理は生物管理委員会の下にあるが。」

生物管理委員会
「確かに現在惑星δの生態系の崩壊は加速度的に進行しているが、δは現在ルーシュの主要生産地であり、頭数削減によりルーシュ生産が決定的に損なわれるのは望ましくない。
生態系の崩壊は、支配種自身をも害する結果になるため、支配種自身に解決させるよう操作することにしたい。」

惑星管理委員会
「それはつまり、支配種を優良化すると?
支配種を劣化させたのは生物管理委員会が極秘に行ったことだと当方は認識しているが。
ルーシュ生産の効率を大幅に上げるため、支配種の知的、感情的能力に干渉し、これらを劣化させ、短絡的思考、視野狭窄、自我肥大に基づく自己中心的性格を強化し、結果、相互破壊能力の向上、居住環境への無関心を生み出した。
我々の調査部門が把握したところでは、生物管理委員会はδ時間10000年前より支配種への干渉を開始し、6000年前までには知的感情的能力の劣化を完了したということだ。」

【人類の知能は2000年~6000年前がピーク説 】
《アメリカ・スタンフォード大学のジェラルド・クラブトリー教授は、人類の知性(知的、感情的能力)が2000~6000年前をピークにして少しづつ低下している可能性があるという研究を発表した。
それによると、狩猟採取生活は一瞬の判断ミスで命取りになるため、知性、感情に安定性があるほど生存できる。
このような自然淘汰によりこの時期最も知性が高い状態であったが、農耕生活により知性、感情の不安定性が生死に直接関係しなくなり、知性は低下の過程にある、と見ている。
つまり、歴史の中で農業や都市が発明され、命が脅かされるリスクが減ったことで、知能の低い人間が淘汰される機会が減ったことが、人類の進化(脳の拡大)を止めた原因だという。
主張によれば、人間は狩猟採集社会として生きてきた時代に進化の99%が終了しているそうだ。
これは脳の大きさの変化で明らかだという。》

生物管理委員会
「・・・・・・・・・。」

惑星管理委員会
「そして生物の優良化は劣化するよりもはるかに困難であるから、今から干渉しても効果が表れ始めるまでに早くても2000年以上かかると推測される。
現在の惑星生態系の崩壊速度からすると100年も維持できないのは明らかであるから、早急な頭数削減以外に方法はないと提言する。」

審議会
「生物管理委員会、異議はありますか。」

生物管理委員会
「…異議なし。」

審議会
「では、削減方法の審議に移りたい。」

生物管理委員会
「核戦争に基づく核汚染でよかろう。その時点で発生が見込まれる大量のルーシュも回収できる。」

惑星管理委員会
「先ほどまでは支配種の優良化を求めていたのに、どういうわけですかね。
核汚染は認められない。結果的に生態系の崩壊までつながりかねない。」

生物管理委員会
「気候寒冷化による食糧削減はどうか。」

惑星管理委員会
「いや、食糧争いから戦争になり、結果、核が使用される可能性が極めて高いため、食糧削減も我々としては認められない。」

生物管理委員会
「いや・・・・・・・・・。」

審議会
「発言は明確に。」

生物管理委員会
「いや、その、つまり…気候変動計画はすでに開始している。
惑星δをルーシュ生産効率の飛躍的上昇の実験地に指定し…」

惑星管理委員会
「その実験地指定は、審議会の許可を受けたものなのか?」

生物管理委員会
「当方としてはそのような許可は必要ないと認識している。」

審議会
「続けて。」

生物管理委員会
「気候変動計画において、惑星δの磁極を調整 したのだが、恒星αとの相互作用によりδの極移動 の可能性が極めて高くなった。」

惑星管理委員会
「我々の許可なしに、…連絡もなしにδの磁極を調整した…だと?」

生物管理委員会
「ルーシュ生産に関する計画は一括して我々の管理下にあると認識している。」

審議会
「その件については、別件として後日改めて審議したい。
つまり生物管理委員会は、ルーシュの生産向上のための実験として気候変動を予定し、結果、極移動の可能性が高まったと。」

惑星管理委員会
「それをごまかすために核汚染を考えたな?
核汚染で支配種を消去して、気候変動計画を極秘裏に葬って極移動の件は感知していないフリをするつもりだったか。
違うか?
優良化を開始したところで、間に合わなかったと嘯いて核汚染で消去するつもりだったんだろう?」

審議会
「憶測で発言しないように。
只今の問題は、惑星δの支配種の処分についてだ。」

生物管理委員会
「現状として、このまま放置した場合の支配種の頭数減少についての我々の予測としては、
戦争及びまたは原発事故による核汚染にのみ基づき削減される可能性は37%。
極移動に基づく気象変動、地殻変動にのみ基づき削減される可能性は24%。
核汚染及び極移動の双方に基づき削減される可能性は31%。
その他、不確定要因として8%。」

惑星管理委員会
「核汚染は惑星生態系の維持を前提とした場合、望ましくない。
核汚染開始以前に頭数削減に着手することが求められる。」

審議会
「ならば第二支配種の導入を提案するが。」

惑星管理委員会
「現支配種との間で核戦争にならないか。」

生物管理委員会
「導入に先駆けて致死性ウイルス を頒布し頭数を減少させておけばよい。
著しい効果があれば第二支配種導入の手間も省ける。」

審議会
「惑星管理委員会、異議はありますか。」

惑星管理委員会
「異議なし。」

審議会
「では以下のように決定する。
惑星δ支配種の削減は惑星δ時間20××年より開始する。
第一段階として、致死性ウイルスの頒布。
第二段階として、第二優勢種の導入。
ただし、第一段階のみで著しい効果が認められた場合、状況推移を確認しつつ第二段階は留保する。
また、第一段階効果発現前に、核汚染及びまたは磁極移動が生じた場合も第二段階には着手せずに状況推移に応じて対応することとする。
なお、最終的に少数の残存が予測される現支配種は、再び惑星生態系を破壊しないように、脳機能を無害に改造するものとする。
改造には非致死性ウイルスを使用する。
このウイルスは遅効性で、最終的な脳機能の完全無害化までに時間がかかるため、支配種削減開始に先駆け、直ちに頒布するものとする。

【「頭を悪くさせるウイルス」に44%の人が感染していたという事実が発覚 】
《感染すると脳の海馬に影響を与え、人間の認識能力を低下させるウイルスの存在が報告されました。
調査では被験者の44%が感染していたこのウイルスの感染経路は不明で、人体には「無害」であるとのこと。》

以上でよろしいか。」

惑星管理委員会
「異議なし。」

生物管理委員会
「…異議なし。」

  1. 2014/11/15(土) 18:00:00|
  2. お話

師匠とその弟子 4 ~創世記を読み解く~

「お師匠さま、世界とは、何なのですか?」

「さぁねぇ?なんだろうねぇ?元をたどってみたらどうだろう。」

「元、ですか。」

「『神は、第七日目になさっていたわざの完成を告げられた。』」

「第六日目に野の獣と人を創られた。」

「第五日目に海の巨獣と鳥を創られた。」

「第四日目に日月星辰を創られた。…これって、遅くないですか?」

「比喩だよ。
それまではねぇ、地球は厚い雲に覆われていてね、星どころか太陽すら見えなかったのさ。
深い霧の中に入ったことはあるかい?太陽が何処にあるかなんてわかりゃしないだろう?
まぁいいや。続けるよ?
神は第三日目に海と陸と草木を創られた。」

「第二日目に水を分け、天を創られた。…えーっと。
『「水の中に大空あれ。水と水を分けよ。」
神は大空を造り、大空の下と大空の上に水を分けさせられた。』
…これはどういう意味ですか?」

「原始の地球には大雨が降り続いていたんだけど 、それが止んだってことさ。
海ができて、空は厚い雲に覆われたんだ。
そんなことより第一日目だ。
『神は光を見て、良しとされた。
神は光と闇を分け、 光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。
夕べがあり、朝があった。第一の日である。』
これはねぇ、物質宇宙の生成と太陽が輝き始めて、自転が始まったってことの両方を意味してる。
私たちの見慣れた宇宙の始まりと言ってもいい。」

「世界の起源は第一日目の前にあるのですね?
『初めに、神は天地を創造された。
地は混沌であって、闇が深淵の面(おもて)にあり、神の霊が水の面を動いていた。
神は「光あれ」と言われた。すると光があった。 』
えーっと。
まず神さまがいらっしゃって。
天と地を創られて。
地と闇と深淵と神の霊と水があったと。
そして光が生まれたと。
…わけがわかりません。」

「文字通りに読んだってわからないさ。
この一節と二節と三節は特殊でね。聖書に出てくる他の文言とは隔絶しているくらいに思っておいていい。
ここでいう神というのは一つの純粋主観、意識だ。
天と地の創造というのは原初の神的意識の分裂。
別の節に出てくる天地とこの第一節の天地はまったくの別物だよ。
でね、天地の創造は“見るもの”と“見られるもの”の分化を意味してる。
宇宙ってのはねぇ、そこから始まったんだ。
天と地、どちらでもいいんだけど、文脈からすると、天が“見るもの”、地が“見られるもの”を意味しているようだね。
“見るもの”についてはそれは純粋意識、神的意識そのものだから一切言語化できない。
だから次の節では“見られるもの”であるところの“地”についてのみ言及している。

『地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。』
これはちょっとわかりづらいけど、第二の分裂について語ってるんだ。
描くなら、太極図ってことになるかな。
陰と陽、有と無。精神と物質、生命と非生命。静と動、或いは生と死。
あるのは、深淵と水。この二つの表面にあるのが、闇と神の霊。
深淵というのは、陰であり無であり物質であり非生命であり静であり死であるところのもの。
水というのは、陽であり有であり精神であり生命であり動であり生であるところのもの。
この二つは対立しているわけじゃない。
ただ二つの異なる方向性というだけの話だから、“渾沌であって”と説明されている。
もしも対立しているのならそこには秩序があるからね。
そして闇が深淵の面にある。
これは水の側から見ると、深淵が闇に見える、というだけのことで、闇に実体はない。
あるのは深淵だ。」

「なら神の霊も・・・・・」

「いや、神の霊というのは、意識の集合体である水が分化したものだ。
水がすべての生命の源であり、神の霊はそこから生まれたすべての個生命体の原形と言える。
言い換えるなら分化した神の意識だ。
神は創られた世界に自らを織り込んだんだよ。」

「そこで『光あれ』とおっしゃられたのは神ですか?それとも神の霊なのですか?」

「神だよ。神というか、全存在というか、「光あれ」という望みがただそこに、神の内にあったというか。
でもね、次の四節の光を見て良しとされた神は神の霊なんだ。
神の霊の中の原初の一人だ。第四節はこうあるね。
『神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。
神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。 』
神ご自身がね、何かを良しとしたり、光と闇を分けたり、何かを名付けるようなことはあり得ないから。
本来の神というのは、第三節までしか出てこない。
四節目以降の神は、神の霊たちを意味している。」

「霊たち?」

「神の霊が一人なわけないだろう?」

「私たちも、…神の霊なのですか?」

「すべての生命、と言ったろう?
もちろん、顕れとしては雲泥の差があるけどね。
物質としての身体を持っているかどうかの違いもあるし、能力も知覚範囲もまったく異なる。
…雲泥の差、ってのはいいね。
雲も泥も見た目はまったく違うけど、どちらも塵と水からできていることには違わない。」

「原初の…天と地を創造された神様はどうなったのですか?
分裂して無数に分化して…」

「一つの創造は一つの破壊で、一つの生が一つの死なら、どうだろうね。
かつて東洋の賢者はこう言ったよ。
『日に一竅(きょう)を鑿(うが)てるに、七日にして渾沌死せり。』
七日にして世界は創られたけど、七日にして神は死んだかもしれない。
まぁ、彼はもっと抽象的な意味で言ったんだろうけどね、そういうふうに見えるかもしれない。」

「じゃあ…」

「いや、実際のところ、神は神のままだよ。
天地は創造されたとも言えるし、されなかったとも言える。
私たちはいるとも言えるし、いないとも言える。」

「わかりません。」

「私たちはねぇ、“見られるもの”、“地”に完全に巻き込まれてるんだ。
忘却の中で楽しめるならそれでいいけど、もし還りたいなら来た道を逆に辿ってみればいい。
自我から神の霊へ、水へ、そして闇ではなく深淵を統合したなら地を知る。
地を知ったなら、そこで天を知るだろう。
天と地は不可分なれば。
“見るもの”と“見られるもの”は不可分なれば。
ただ…そこで神を知れるのかどうかは、私たちにはどうにもできない。」

「やっぱりわかりません。
でも…神は神のままなんでしょう?神が神のままなら、何処にいらっしゃるのです?」




「ん?神は、今、此処のすべてに。」



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  1. 2014/01/06(月) 20:20:04|
  2. お話

師匠とその弟子 3

信じることとか、疑うこととか。


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  1. 2014/01/05(日) 20:20:18|
  2. お話
  3. | コメント:0

師匠とその弟子 2

…何処からともなく浮かび上がる対話のような。


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  1. 2013/12/20(金) 17:19:43|
  2. お話
  3. | コメント:0

師匠とその弟子

ある月の綺麗な夜のことでした。

お師匠さまは二人の弟子と、丘の上で冥想しておられました。




「お師匠様はウソを吐いておられますね」

「いきなり何の話かな?」

「パリサイ人たちのいう神とお師匠様のおっしゃる神は別モノでしょう?
なぜ同じ神として話されるのですか?」

「前にも言ったろう?
神と言うのは、擬人化だよ。それはまるで人ではないのだよ。
それをねぇ、わかりやすいように、まるで人であるかのように話してるだけなんだ。
そうそう、最近は擬人化が流行ってるのかね。
“艦これ”っつったっけか。“艦娘(かんむす)”とかわけわかんないよね。
トマスはそういうの詳しいだろう?」

「いいえ、お師匠様」

「そうか。相変わらずトマスは無口だねぇ。
うん、要するにね、あの艦娘と実際の戦艦くらいかけ離れてるよ、…それ以上かな、ユダの考えている神と実際の神とでは」

「お師匠様、例えがまったくわからないのですが…」

「ユダにはわからんか。トマスはわかるよな?」

「いいえ、お師匠様」

「ふむ。そうか。じゃあ、おしゃべりはこのくらいにして冥想に戻ろう」

「いやいやいやいや、ちょっと待って下さい。質問に答えてないじゃないですか。お師匠様はまったく新しい神を語っておられる。俺は混乱して頭がおかしくなりそうだ」

「そうか?神に新しいも古いもないぞ?東の国には300万の神々がいるそうだ。さらに東の果てには800万の神々がいるそうだ」

「お師匠様は多神教徒だったのですか????あれは外道ではないですか」

「それはどうかな…。私の言う神にはパリサイ人の神も含まれるけど、パリサイ人の神に私の言う神は含まれない。
デミウルゴスは神ではないが、神はデミウルゴスでもある」

「わかりません」

「神は創造主でもあるし、八百万の神々でもある。お前であるのと同じように。ただ…お前の場合は、神はお前でもあるが、お前は神ではない」

「まったくわかりません」

「そうか。…トマスにはわかるな?」

「いいえ、お師匠様」

「擬人化というのは…つまり、ウソなのですか?」

「ウソも方便」

「……。」

「言葉はすべてウソともいえる。ウソでない方便など、ないよ。神と言い、悪魔と言う。言葉の上の話だ。言葉を超えれば、神も悪魔も消える」

「さっぱりわかりません」

「わからないか。ふむ。いい言葉だね」





沈黙が流れ、あたたかな風がゆるりと三人を包んで過ぎていきます。

お師匠さまが磔に処せられてしまったのはそれから一年と少し後のことでした。







『イエスが言った、

「…木を割りなさい。私はそこにいる。

石を持ち上げなさい。そうすればあなたがたは、私をそこに見出すであろう」』




                トマスによる福音書





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  1. 2013/11/29(金) 08:32:06|
  2. お話

別れ道

実在の地名とは一切、無関係です・・・




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  1. 2013/04/27(土) 07:42:21|
  2. お話

丹沢にて

丹沢山地は 首都圏近郊の手頃な山として 親しまれているが
その主峰である蛭ケ岳より西に入ると 登山者はめっきり少なくなる

だから その日の早朝 蛭ケ岳山荘を出発し 一時間程歩いた私が 登山道の傍らに突っ立っている子供にひどく違和感を感じたとしても 不思議ではなかろう
年令は 六~七才だろうか
薄汚れた運動靴を履き この初冬の山中には不釣り合いな 薄手の白い長袖シャツを着ている
ボサボサの短い髪
男の子?いや 女の子 と言われればそのような気もしてくる
そんな捉えどころのない顔をしていた

不審に思ったが 
いや 不審なればこそ 声をかけてみる
その不審を 打ち消すために

「おはよう」

子供は 私を見て 笑っている
此処で 私を待っていたかのように

「こうやってね
光を キラキラさせるんだ」

子供はいきなり そう言って 手をかざして
少し振って見せる
何かを持っているのではなく
子供の手が 光っているようだ

「そうするとね
集まってくる人がいる
光の親和性 だね
光の欠片が 意識の中でまだ生きてる人は
光に引き寄せられるんだ」

子供は ニヤニヤして 続ける

「そこでね 闇を見せるんだ」

子供が 左右に大きく手を振る
私は目を見張った
突如として 子供の周囲から闇が 拡がり始めたのだ
凄まじい速さで 周囲の樹木が 崩れるように 闇に溶けて行く
空は明るさを失い 私の立っていた登山道も 崩れ 溶けた

上下左右 奥行の知れぬ 闇の空間で
奇妙な浮遊感と落下感を味わいながら 私は 子供と対峙していた

「面白いよ
集まって来た人たちが
蜘蛛の子を散らすみたいに 逃げて行くんだ
ははは
まったく 闇を見ずに 光だけ見ようなんて
どんだけご都合主義なんだろうねぇ?
そんなんで どうやって 光の向こう側まで 行くつもりなんだろう
無理に決まってるじゃんねぇ?」

闇の中で 子供が笑っている

何だ この子供は?
私は 混乱していた
何だ この闇は?
時間は 七時を回ったばかりの筈で 私は 山歩きをしていた筈だ
落ち着け
落ち着け
落ち着け
考えろ

「光に寄ってくる 光の子らは たいして遠くまで行けないと 僕は 思うんだよね
いくら 光 光 光 つって光を求めてもさ
貪欲なんだよ
あんたは どう思う?」

いきなり 一体 何の話だ?
私は 答えられずに 黙っている

「どうしたの?何で黙り込んでるの?」

子供は 少し 不機嫌になったようである

「答えないと 此処から出さないぞ」

いや しかし  そう言われても

そもそも 状況的に この子供は 人間じゃないよな?
私は 別に オカルトと言われる分野に拒絶反応を起こすような人間ではない
むしろそれらに多少は関心があるくらいだ
しかし 実際にはUFOらしき正体不明のモノをだいぶ以前に見かけたことがあるくらいで
いきなりこのような事態に遭遇しても対処法がまるでわからない

とりあえず 答えてみる

「そ そうだね 俺もそう思うよ」

子供の眼が 真剣になる
ヤバい

「嘘つきっ」

子供が 甲高い声で叫ぶ

「あんたもそうなんかっ
現実を素通りしてっ
妄想に閉じ籠ってっ」

私を包む闇が 重くなり始めた
指先を見ると すでに 溶けている
クソ 何なんだこれは
まずい マズい マズイ
焦り 振り返って子供から逃げようとしたが できない
下を見て すでに 脚が消えていることに気づいた
そして 腕が消えた

「ぅあっ」

・・・死の 感覚に 恐怖する




その時 肩を強く叩かれた

闇と子供は 消え 私は 登山道に突っ立っていた
冷たい風の中に じっとりと汗をかいて

慌てて腕と脚を確かめるが ちゃんとついている
振り向くと 黒いジャケットを着た老人が 私を見て 幽かに微笑っていた

「あ ありがとうございます」

しかし 言葉が続かない
私は どう見えていた?どう説明する?
ちらと 時計を見ると もうすぐ九時半になる
バカな・・・二時間半も経ったのか?
私が困惑していると
老人は何も言わずに速足で 私の来た蛭ケ岳の方へ歩いて行った

私は 深呼吸すると 西丹沢へ下ることにした





バス停で暫く待たされて やっと来たバスに乗ろうとした時

「まだ 生きたいんだな?」

何も言わなかった筈の老人の声が 何処からか 聞こえた気がした

「どうやら そうらしい」

私は小声で呟き 山を振り返ると 
稜線は雲に覆われ もう見えなかった
そして 何故か あの子供の顔と 老人の顔が重なって思い出された
  1. 2011/03/29(火) 20:03:40|
  2. お話

お地蔵さん

僕の家から少し歩いた処に 幹線道路があって
その道路傍にお地蔵さんが住んでいます
小さな祠に住んでいます

或る日 僕は 僕がわからなくなったので
お地蔵さんに聞きに行きました
お団子とお茶を供えて 聞きました


地蔵:おっ 団子か 久しぶりだな
しかもお茶まで付いてる ♪
で?ただでもらえるわけじゃないんだろ?
用は何だ?願い事かい?


さっそく お団子に手を伸ばしながら
お地蔵さんが言います


僕:一つ聞きたいんだけどさ
人間には 何ができるのかな?

地蔵:随分 欲張りな質問だな・・・


お茶を一口飲むと
お地蔵さんは一瞬 遠い目をして
続けます


地蔵:まぁ いいか
で 人間に何ができるかって?
そりゃあ いろいろできますぜ
何しろ お月様にまで行っちまったくらいだ

僕:いや まぁ そうなんだけどね
その つまり 僕が聞きたいのは ね
内面的に 人は何ができるのかな と

地蔵:そりゃ ま いろいろできますぜ
何にしろ 繰り返し習慣づければ
人間なんて どうにでも洗脳できる
社会なんざ それで成立しているようなもんさ


お地蔵さんは お団子を頬張りながら もごもご話しています


僕:うーん そういうことでもなくて
てか むしろ そういう洗脳から
自由になれないもんかな?
僕は 本当に 確かなモノを 知りたいんだ

地蔵:さぁ?あまりお勧めはしませんがね
自分を実験台にしていろいろやってみることはできますぜ?
まー 発狂するくらいの覚悟がなきゃ そう遠くまでは行けやしないんだけどね
あっ この団子 うまい
いや なに 簡単なことでさ
ちょいと独りで引き籠もって徹底的に考えてみりゃいいんだよ
んで 自分がそれでも まともだと感じているなら そいつは単に 考え足りないってだけの話でね
あー 狂ったな と感じてきたら 其処ら辺が 入り口かな
勿論 途中でどんなにヤバく感じても クスリは絶対禁止だ 
仮に 発狂したり自殺することになったとしてもね

僕:ちょ・・・ちょっと待った
考えるって ・・・何を?

地蔵:おいおいおい そんなこと聞くくらいなら
君は全然 まったく これっぽっちも こっちに来る必要はないよ
そのままそっちで 悩み 喜び 生きて 死ねばいいさ
自分がわからんならわからんままでよかろうさ
世間の中で右往左往してりゃいいじゃん
それで充分なんじゃないのかい?
わざわざ 俺みたいに バカげた一歩を踏み出す理由なんて
何処にも ありゃしないんじゃないのかい?


お地蔵さんは お茶をずずーっと飲み干して軽く溜め息をつきました


僕:じゃあ 僕は どうすればいいんだよ?僕には何もわからないんだ

地蔵:そんなの知ったことかよ?好きにすりゃいいんじゃねぇの?
そのうち何か見つかるかも知れんし
どう転んでも 悪くてせいぜい何処かで野垂れ死ぬくらいのもんだろ?
たいしたこたねぇじゃん


僕の顔は少し歪んでいたかもしれません


地蔵:まー折角 団子くれたからな
一つくらいは 提案してやろうか

『自分の恐怖を 眺めてごらん』

もしも の話じゃなくてさ
今 其処にある 自分の恐怖を 引き摺り出して 眺めてごらん
眺めるだけでいろいろ変わるもんだよ
出来れば自分の影を全部引き摺り出して虫干ししてみるのがいいんだけどね
まー 君にそれが出来なかったとしても 君の団子が無駄になるだけの話だから 気にするこたないよ
んじゃ ご馳走さん



祠の扉が パタンと 閉じました
僕の未来が一つ パタンと 閉ざされました
いいえ 開かれたのかもしれません
どちらかは わからなかったのだけれど
どうやら僕は まだ 僕から自由になれないままに
この社会の中で生きていかきゃならないようでした







  1. 2011/01/30(日) 12:59:00|
  2. お話

定点観測

『定時報告:第1兆6,790億2,312万8,632回

生命反応変化率 -0.0213
生命反応偏向率   0.0896』



『定時報告:第1兆6,790億2,312万8,633回

生命反応変化率 -0.0217
生命反応偏向率   0.0932』



『定時報告:第1兆6,790億2,312万8,634回

生命反応変化率 -0.0221
生命反応偏向率   0.0947』



『定時報告:第1兆6,790億2,312万8,635回

生命反応変化率 -0.0967
生命反応偏向率   0.1069

対象惑星“θ”の3/13自転周期前に 変化率 偏向率 共に大幅な変動が観測された
生命反応偏向修正の為に 不可逆過程開始前の即時介入を申請する』



『第1兆6,790億2,312万8,635回定時報告に関する連絡

・即時介入を許可する
・介入方法は第23万5,427回定時総会において決定された第2案(現行生態系の存続を前提とした現生支配種の強制削減)の内 手続きaに従うものとする
・詳細は惑星の現状を鑑みて現地観測所にて適宜対応するものとする
・現地観測所は当連絡到達後速やかに手続きを開始するものとする』



『第1兆6,790億2,312万8,635回定時報告に関する連絡への返信

了解した
速やかに手続きaを開始する』



×××××××××××××



以上は 地球人類が初めて解読に成功した異星文明の通信とされている

当時の重商工業都市文明は この解読直後に 瞬時にして壊滅したらしいが 状況があまりにも急速に進展した為 正確な壊滅原因は不明なままである

諸説あるが いずれも憶測の域を出ていない

核が使用された形跡はあるが 滅亡の直接の原因ではない というのが 共通する見解である
  1. 2011/01/03(月) 23:54:56|
  2. お話

星   煌めいて    私は

日も暮れたので 軽く夕食を済ませた後 私は とぼとぼと 裏庭から続く森の中に分け入り いつもの空き地で 夜空を見上げていた
今日は いつになく風が冷たいが まだ 凍り始めてはいない

そこで私が何をしているのかと言えば 勿論 星座を描き 神話を喚び起こすつもりなのだ


季節は過ぎて 星は移ろうのだけれども
何故か私は いつも 星座を描き損ねる
いや 描かれた星座を受け取り損ねると言うべきなのだろうか

誰もが それぞれに星座を描き それぞれの神話を語るものだが
しかし 私には どうしても星座が描けない

星たちは いつだって勝手に ぎらぎら光っているのだ
何の協調性もなく

神話の神々は 闇の中を右往左往して 息絶えていくのだ
何の物語も 紡ぎ出せずに

そもそも それは 私が 描かねばならぬのか  自ずと 描かれるものなのか すら わからない
そんなことすらわからないのならさっさと 諦めてしまえば良さそうなものだが
私には やはり 何か 描かれねばならぬ星座が あったような気が しているのだ
喚び起こされ 語られねばならぬ神話が 確かにあったはずなのだ

そうなのだ   私には どうしても 
その星座と神話に 織り込まなければならぬ 何か ひどく大切なことが あったのだ
それだけは 忘れまいと思っていたことは 覚えているのに
それが何だったのか どうしても思い出せない

だから 星座を描けないのだろうか

何か とても大切な
誰にとって 何故大切なのか
理由も きちんとあったのだが
何一つ 思い出せないのだ

風が 凍り始めてしまう前に
星座は描かれ 神話は語り尽くされねばならぬのに
もう 季節は 凍り始める気配に満ちているというのに

それなのに 私は
まだ 何も  何一つも  描けていないのだ

いつも 森に入り 空き地に転がる大きな石に腰掛けて 星を 漫然と眺め 夜更けに 虚しく家に帰る
そんな日を 一体 どれほど 繰り返せば 気が済むのだろう

焦燥と諦念の狭間で  私は 空回りを続ける


風が 凍り始めたなら
何もかもが 消えてしまうから


星も月も    空も

                                   私も

コトバなど 発する前に 消し飛ばされるから

だから

            せめて


                            風の 凍り始める前に


刻みたいのに



私は





そして 

私は  

今日も

森の中の空き地で 一人 
食い入るように 星を見ている
  1. 2010/12/01(水) 20:51:48|
  2. お話

宇宙(ソラ)へ

静かな 満月の 夜でした

湖面で眠る水鳥たちは 月の光に目を覚ましました
月の光は 幽かな 懐かしいリズムとなって水鳥たちを震わせたのです
そうして 月があまりにも 輝いていたので
彼等は皆  一斉に水に潜り 揺らめく魚となって 泳ぎ始めました

しばらく水面(ミナモ)近くを周遊しておりましたが どうも 底の方に何かあるようでしたので
魚となった鳥たちは  群れを成して 深みに向かったのです
みるみるうちに 銀色に輝く水面は遠ざかりました

折角 魚になったのだから 湖底をちょっとばかし散策しよう
本当は そう 思っただけなのかもしれません

けれども
泳げども 泳げども
潜れども 潜れども
底には着けなかったのです

この湖は 年に一度
大潮の夜に 底が消えることを 鳥たちは知らなかったのです
それでも ただ 突き動かされるように
暗い水底へと まるで 堕ちるかのように 泳ぎ続けます

闇に堪えられなくなった仲間たちが 次々と引き返し
寒さに堪えられなくなった仲間たちが いつの間にか 姿を消し

沈み続けるのは一握りの者たちだけになりました

微かな明かりすら見えなくなって どれ程 泳ぎ続けたでしょうか

行く手に 点々と 明かりが灯り
それが 天空の星々そのものだと知った時の彼等の喜びを何に例えればいいのでしょう

深淵は 宇宙(ソラ)へと続き
いつしか 鳥たちは 憧れていた星々の闇を泳いでおりました


・・・・・・・


水面近くで 揺らめいていた魚たちは 月の光があまりにも眩しかったので 寝つけずにいたところ

水面で眠っていたはずの水鳥たちが 一斉に魚になって水底へ向かうのを見ました

魚たちは 少し考えた末 水面に 躍り出て 鳥になり
そうして しばらく 羽繕いなどしておりましたが
月が十分に明るかったので 飛び立つことにしました
鳥になった魚たちは  一斉に飛び立ったのです

水面の月が崩れて 再び 形をなした時には
魚たちは 月に照らされ遥かな空を飛翔していました

薄っすらと明るい 地平線を目指せば みるみるうちに日は上り
初めて見る景色に 魚たちは驚きざわめきました
いつもいつも自分たちを脅かす二足動物たちの住処が 延々と連なっていましたが
何と小さく見えることでしょう
その住処が疎らになれば
色づく森 雪の山  あぁ 煌めく湖も見えます
やがて陸地が途切れると 海が広がりました

眩暈のするほどに広々とした海の上を 飛び続けていますと 
やはり 懐かしさに堪えられなくなったのでしょう
多くの仲間たちが魚へと戻り 海へ 堕ちて行きました

やがて 飛び続ける者たちの数が ほんの一握りになった頃
日が沈み始め海は金色に輝き  残された魚たちは 再び 月を 見上げていました
幽かに響いているリズムが強まります

・・・行こう

囁くように聞こえた 誰のものとも知れぬ声は
夜風に鳴る翼の音だったのかもしれません
けれども 魚たちは 風をつかみ 舞い上がりました

高く 高く 高く

遠くへ

月に輝く雲の峰を突き抜けると
青く 透明な大気は すぐに消えて
星々の世界に包まれました

魚たちは 月を掠め   
小惑星を縫うようにして躱し
木星の重力で加速して
惑星軌道を次々に横切り
飛び続けたのでした


・・・・・・・


太陽が 星々の海に 紛れて消えた 銀河の辺境で
鳥となった魚たちは
魚になった鳥たちに 再び出会いました

そうして 鳥は鳥に 魚は魚に戻り
共に 宇宙(ソラ) の彼方を 目指したのです

何処からか聞こえてくる 懐かしいリズムだけを 道標にして
彼等は 宇宙の果てに 消えていったのでした
  1. 2010/11/21(日) 15:41:49|
  2. お話

河原にて

石ころだらけの河原に一人 しゃがみ込んで
あたしはあたしの世界を積み上げている

河原に散らばる流木を削って
平らな石の上に 積んでいくんだ

・・・あたしは どんな世界に住んでいたんだっけ
ああして こうして これがこうなって これをこうして
何が何だか どうにも思い出せないな
こんな感じかな?だいぶ違う気もするけど
これはこれで いい感じ
もうちょっとで完成だ

あれ また足音がする
また?前にもあったっけ?こんなこと
微かな既視感 まぁ いいか

足音が近づいてくる

振り仰げば 鬼が あたしのいることにすら気付かぬ様子で歩いていく
あ  あああ あたしの世界が 世界が
鬼は 踏んだことにすら気が付かない
あたしの世界は 粉々に砕けてしまった

黒い川は素知らぬ顔で流れて行く
見上げれば 暗褐色の空
此処の空は 蒼くはないのだな
蒼い空が 懐かしい

蒼い空?
蒼い空は 何処だっけ?
なんで あたしは此処にいる?
何が何やら どうにも思い出せないな
何だか 大事なことも忘れてるみたいだけど
でも まぁ どうでもいいや

あたしはあたしの世界を 創らなきゃ

世界を創れば きっと思い出せるよ  何もかも



生臭い風の吹く河原に一人 しゃがみ込んで
あたしはあたしの世界を積み上げている

河原に散らばる流木を削って・・・
  1. 2010/08/23(月) 19:12:34|
  2. お話
  3. | コメント:0

或る日の或る詩

或る日、あたしは詩を書いてみた。
うまく書けなかった。
(・・・冗長で、くだらないな。捨てるか。また時間を無駄にしてしまった。)
けれども、いつも遊びに来る友人が、これを見つけて、褒めてくれた。
「すばらしいじゃない」
「そう?じゃ、あげるよ」
ちょっと言ってみたら、不思議なことに友人はそれを喜んで持って行った。

独りになって、少し、考える。変なこともあるもんだ。
嬉しくとも何ともなかったが。


ところが、驚いたことに、一週間後、友人はそれを勝手にあたしの名前で発表して、原稿を返してきた。
(ったく。勝手なことしてんじゃねぇよ。ブログにでも載せておくか。)
ブログに載せてみると、驚いたことにアクセスランキングは急上昇。読んだ人みんなが称賛のコメントを送ってきた。
(な、なんだなんだ?どうなってんだ?こんなものが流行るのか。世間はよくわかんね。いつものことだが。)

「新聞に載せてもいいですか?」
   「教科書に載せたいのですが?」
           「詩集を出版しませんか?」
(騒々しいな。)
あたしの詩は、独り歩きを始めた。

世のお偉方がみんな揃って、褒めてくれた。
みんな同じようなことしか言わないので、何と言ったのかは忘れた。
ナントカいう賞やカントカいう賞ももらった。
各国語に翻訳され、世界中の人々が読んだ。
そして、世界的な、ノーナシ文学賞とかいうのをもらった。
まったく納得できなかったが、お金をくれるというので、もらっておいた。


授賞式から帰ると、部屋のゴキブリが褒めてくれた。
「いい詩だね。」
床のダニたちが、称賛した。
「地球史に残る詩だね。」
あたしは少し、眉間に皺を寄せてみた。

机も椅子も壁も、あたしの着ている服も、あたしの詩を褒めてくれた。
「すごいじゃないか。」
あたしは少し、作り笑いをしてみた。


やがて。


噂を聞きつけた、シリウス第四惑星の客人たちが、わざわざあたしの部屋まで来て、こっそり褒めてくれた。
「銀河史上、最も麗しく輝かしい詩だね。」

あたしの詩は、銀河中で読まれることになった。
何故なのか、は、あたしにはまるで分らなかったけど。

そしてついに噂は銀河を超えて広がったらしい。おとめ座銀河団NGC4639の最高意思決定機関が、あたしを招待してくれたのだ。
あたしは七千八百万光年ばかし転送されて、無数の異星人の前で、その詩を歌わされた。
あたしは歌いたくなかったけど、仕方なかった。ただ、つぶやくだけで、彼らには聞き取れるらしいので、とりあえずモソモソとつぶやいてみただけだったが。

「これは、宇宙開闢以来、至高にして至純な詩ではないか?」

全宇宙が、あたしの詩を褒め称えた。
万物が、その詩を褒めちぎり、涙を流した。
森羅万象すべてが、その詩を歌い、その詩とともに生き、死んだ。
但し、あたしを除いて。
尤もあたしの肉体は宇宙に属していたけど、あたしには逆らえなかったので、不機嫌そうに黙り込んでいた。

あたしだけが、あたしの、その詩を歌えなかった。歌っても、まるで楽しくなかったから。


あたしは、あたしの小さな部屋に帰り、小さな詩を書いてみた。
うまく書けたので、独り、ニヤニヤする。
口ずさんでみると、とても嬉しくなったので、ブログに載せてみた。
拍手は一つも来なかったけれど、あたしは満足して、ぐっすり眠った。
  1. 2010/07/15(木) 18:31:55|
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くだものとおさかな

ゆうごはんのじかんです
おとうさんがいろんなおはなしをしてくれます

たべられるためにあるのは くだものだけなんだよ と おとうさんがいいました
でもおかあさんが おさかなをやいてくれました
このおさかなは どこでしんだのかな
このおさかなにも おかあさんはいたのかな
なんだかたべづらいので たべたくないといったら
おかあさんは さかなもたべないとびょうきになる といいます
くだものだけたべて いきていけたらいいのにな
それだけでいきていけるひともいる と おとうさんがいうと
ばかなこといってないではやくたべなさい と おかあさんがいいます
おとうさんはぼくをちょっとみてから
かたをすくめて おさかなをたべます
ぼくもちょっとかたをすくめてから おさかなをたべました
おしょうゆをかけて たべました
おさかなはおいしかったので
くだものだけたべていきるのは やっぱりなんだか ぼくにはむりみたいだ
たべられるためじゃないおさかなをたべなきゃいけないということは
ぼくはいきてていいのかな
ぼくがそういうとおとうさんとおかあさんは
もちろんよあたりまえじゃないか といいました
さかなをたべるのはしかたのないことなんだよ と おとうさんがいいました
ぼくのおでこをなでながら いいました







きょうもおさかなのかんづめをたべました
かんきりをつかわないとあけられないかんは あけるのがめんどうです
でもおとうさんがおしえてくれたのでだいじょうぶ
おとうさんもおかあさんも いなくなっちゃったけど
おじさんもおばさんも みんないなくなっちゃったけど
どこへいったのかな
もうあえないのかな
ずっとずぅーっと あえないのかな
しかたのないことなのかな
おかあさんがいなくなったときに
おとこのこだろなくんじゃない と おとうさんがいったので
ぼくはなかないけれど
なみだとはなみずが ときどきとまらないんだ
しかたのないことなのかな

いつもくだもののかんづめをさがしてたべます
でもびょうきになるから おさかなのかんづめもたべます
  1. 2010/06/05(土) 09:16:01|
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神様と子羊

子羊 「ねぇ、神様、この世界は神様がお創りになったのですか?」

神様 「あぁ、そうだよ。どうだ?素晴らしい世界だろう?」

子羊 「神様がすべてをお創りになったのなら、すべては神の欠片(カケラ)なのですか?僕も、あの子も」

神様 「・・・そうだよ」

子羊 「政治家も、犯罪者も?」

神様 「・・・・・・そうだよ」

子羊 「今、ためらいませんでしたか?あ、いえ、何でもないです。それで神様は何故、こんな世界を創ったのですか?何かを殺さなければ生きて行けない世界を」

神様 「私は“死”を創らなかった。“死”というものはないのだよ。すべては、形を変えるだけなのだよ。君の魂も。永遠に」

子羊 「神様、この世界を創った動機は何ですか?」

神様 「遊びだよ」

子羊 「神様の遊びですか?それとも僕たちの?」

神様 「私の遊びでもあるし、君たちの遊びでもある」

子羊 「遊びにしては、深刻すぎませんか?」

神様 「遊びだとわからないようにしたからね」

子羊 「どうしてですか?」

神様 「ほら、遊びってのは、真剣にやった方が面白いだろう?後で笑えるだろう?だからわからないようにしてみたんだよ」

子羊 「ではそもそも、なぜ、世界を創って遊ぼうと思ったのですか?」

神様 「退屈だったからだね。新しい宇宙を創り、改変し、壊し、また、新しい宇宙の材料にする。
それより、君は何をしているのかね。何ボンヤリしているのかね。ほら、早く遊びに行きなさい。楽しみなさい」

子羊 「今、話を逸らしませんでしたか?まぁ、いいですけど。
でも、遊べって言われてもね・・・もうこの遊びは真剣にやってもつまんねぇし。楽しめねぇし。後で遊びと分かっても笑えねぇし。僕にとって最悪なのは、笑えない冗談なんですけど」

神様 「おや?お前は、私の言葉が聞けないのかい?それに私の創った世界をバカにしているように聞こえたが。聞き違いかな?」

子羊 「いいえ。聞き違いではないと思いますが。僕はね、この世界が笑えない冗談だと、言っているんですよ」

神様 「そうかい。遊ばないなら、意味はないね。さっさと、この世界から出て行きなさい。な~んてな。私は出口を創らなかったから、出て行きようがないわけだが。
この世界は唯一にして、完璧なのだよ。“世界の外”などというものはありえない。
子羊よ、己の無力を知りなさい。所詮お前は被造物に過ぎないのだ。何、これも予定調和だ。想定内だよ。お前が何をほざこうと私の掌の上で走り回り、飛び跳ねているようなものだ。
私の創った世界はすべてを表現しきっているからね。必要ではないが、排除する価値すらないお前のような不良品ですら受け入れる余地があるのだよ。お前は表現された永遠の無意味として私の世界を飾ってくれる」

子羊 「さぁ。それはどうですかね。実はもう、出口の見当は付いているのですよ。“世界の外”へのね。隠されていた道標を数年前に見つけましてね」

神様 「バカな。そんなもの、私は創ってない。そんなモノが私の世界にあるわけないだろう」

子羊 「そう思いますか?でもね、道標はあったんだ。出口も間違いなく、あるね。神様、あんたの世界は初めっから、完全じゃなかった。ほころんでた。亀裂ができてた。
それを誰かが見つけたんだ。その人は出て行っちゃったみたいだけど、標識を残して行ってくれたんだ。まー、あんたに邪魔されたくないから詳しくは言えないけどね」

神様 「愚か者が。出て行って何があるというのだ?何をするというのだ?」

子羊 「何も。何もしないし、何もないと思うよ。多分、文字どおりに消えるだけなんじゃないかな。意味もなくただ単に、消えるだけなんじゃないかな。
でも、そこに少なくとも、嘘はない。見せかけだけの“意味”と呼ばれる嘘はない」

神様 「ふん。わけのわからんことを。まぁ、出て行けると思っているなら、努力してみればよい。“世界の外”があると思っているなら、奮発してみればよい。
もし出れても後悔するに決まっている。この世界がどれほど素晴らしかったか思い知るがいい」

子羊 「こんな世界を永遠にうろつきまわるよりは、消えた方がいいな。
神様、あんた、この世界が不完全だとわかってただろ。それから、あんたは“死”を創らなかったんじゃない。創れなかったんだ。先にあったのは“世界”じゃなくて、“死”だったから。“神様”じゃなくて“死”だったから。
神様、この世界は、“死”の中にぼんやりと浮かんでいる小さな球のようなものだ。あんたが、“死”を拒絶するためだけに創ったんだろ。
あんたがどうやって生まれてきたのかがわからんが・・・、あんただって“死”から生まれてきたんだろ?そのくせ、宇宙を創っては、“死”に浸蝕され、その度に宇宙を創る。あんた、そんなことだけを延々とやっているんだろ」

神様 「出て行け。今すぐ出て行け。一人で消えろ。この被造物がっ。お前を創ったのは、私だということを忘れるな」

子羊 「もう忘れたし。でも最後までウソツキなんだね、あんたは。
この世界は“死”を拒絶するために創ったんだろうが、イノチの中枢には“死”が埋め込まれてる。あんたが自分で埋め込んだんだろ。僕が気づいていないとでも思っていたか?
“死”を拒絶しつつも“死”がなければあんたの世界は成立しない。結局、あんた、“死”に寄生しているだけだろう。そもそも、“それ”を“死”と名付けたのは、あんたなんだろ?
意識の、イノチの、本質を。
コトバに出来ない、存在の中枢を。
“死”と呼んだのは。
親しむべきモノを恐れるべきモノに言い換えたのは。
あんたなんだろ?
ただちっぽけな自分の世界を守るためだけに。
まぁ、いいや。もう会わないよ。会いたくないし。バカ臭いし。じゃあね。バイバイ」





神は、憤死し、宇宙が一つ、消えた。



こうして、子羊は望みを叶え、
その宇宙に囚われていたすべての“死”は、“世界の外”へ、解放された。

“世界”は、“死”へと、還元された。
  1. 2010/05/29(土) 09:43:42|
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虚無空間~最低な日の翌朝~

最悪の気分で目が覚める。
午前三時。まだ二時間も寝てない。
昨日のことが頭から離れねぇ。気が滅入る。・・・俺のせいか?契約が取れなかったのは俺のせいなのか?バカな上司が余計な口出ししたせいなんじゃないのか?まったくありえねぇよな。あんなんで先方と話が合うわけねぇし。契約取れるわけねぇし。
上司の口出しに対応しきれなかった俺がバカだった?あぁ、そうだよ、俺がバカだったんだよ。それとも何か?俺は自分の失敗をバカ上司に責任転嫁してるだけか?言うべきことを俺は言うべきだったんだ。チクショウ、またやっちまった。久々の自己嫌悪。昔を思い出しちまったじゃねぇかよ。ふざけんな。ボケッ。凹む。凹む。凹む。クソッ。
思わず毛布を蹴飛ばした瞬間、俺の意識の焦点は、事象の裏側にずれて、あの空間へと落ち込んだ。


虚無は異様な広がりを見せ、空間はかなり歪み始めているようだった。
A氏は孤島のようになってしまった地面に生えている虚木の枝に腰かけていた。
俺は根元から、声をかけた。
「おい。おいおいおい。なんでまだ居るんだよ?生まれ変わったんじゃないのかよ?」
「おまえこそなんで来たんだ?意図しないで此処に来てしまうようだと病気だぞ」
「・・・」
「お、凹んでるな?何があった?ははぁ、私の忠告を無視したな。人生は」
「もういいよ。人生は。てか、おまえ、いつまでここにいるんだよ。さっさと生まれ変われよ」
「何、気にすんな。虚無が荒れてるだろ。直にこの空間は崩れる。もうすぐだ。崩れて虚無に還る。それまで居たっていいだろ」
「チッ」
「なんだ?・・・ん?そうかそうか。独りになりたかったのか。そりゃあ、残念だったな」
「うるせー」
「ま、こっち側にはね、いろんな空間があるから、また、適当なのを見つけりゃいいさ」
「おまえは生まれ変わらにゃならんけどな」
「うるせー」

じわじわと足場が崩れていく。とりあえず、俺も虚木に上り、A氏の隣の枝に座った。
凄まじい光景が広がっていた。虚無は触手のように虚空へ伸びていき、虚空を取り込もうとする。
虚空は滝のように落下し、虚無をかき乱す。そして、混ざり合う。
混沌、とは、こういうことか。世界の終わりは、こんな景色か。或いは、世界の始まりは。

虚木が虚無へと還元され始めた。A氏が虚無に呑まれていく。
A氏は一瞬、ひきつったような顔をしたが、俺の方を見て、苦笑いして、消えた。
何処に生まれ変わったことやら。
そして俺にも虚無が纏わりつき始め、音もなく虚木が消えた。一瞬の浮遊感。そして落下。いつもの俺の部屋へ。
あの空間は完全に虚無に還元されたようだった。


「はぁ~ぁぁぁぁぁ~」
俺は全身全霊を込めてため息を吐いた。何も変わっちゃいねぇ。
もう時間だ。俺はのろのろと会社へ行く準備を始めた。

ふと携帯を見るとメールが来ている。俺に甥っ子が出来たようだった。


 
 
 
  1. 2010/05/18(火) 05:12:49|
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虚無空間~退屈な日常~

「あなた 壊れかけてる。狂ってるわ。現実を見てない。逃避しているだけよ」
「そうかな?逃避しているのは君らなんじゃないのか?」
「君らって…何なの いったい。自分だけが正しいとでも思ってるの?あの人が怒鳴りつけた理由、全然わかってないの?」
「未熟な老人が多いからな。見るに耐えらんないほど幼稚な大人たちがそこいら中を飛び跳ねてる。君も気をつけた方がいいよ。見かけの年齢に惑わされないように」
「…あなたに何を言っても無駄なのね」
「それは君が」
「あなた 終わってるわ」
「…それだけは正解」
疲れて来た俺が無理矢理笑ってみせると、彼女は凄まじい形相で俺を睨みつけてから、ドアを叩きつけるように閉めて出て行った。
俺は間違ってんのかな?
彼女にはもう会えないだろう。これで、いいんだよな?仕方ないよな?
自分に嘘付いたって、そっちの方が耐えらんねぇし。…なんかいっつもこんなんばっかだな。
気が滅入ってきた俺は、事象の裏側へ、遊びに行った。勿論、A氏をからかうためである。
行き方は分かってる。別に雪山で遭難しかける必要はなくて、こんな気分の時にほんの少し意識の焦点をずらすと、結構簡単に行けることを先日発見したのだ。

行ってみると、どうも、虚無の領域が以前よりも拡大しているようであったが、今の俺にとっては、大した問題とも思えなかったし、そもそも、虚無に対しては、誰もが完全に無力であった。
しばし、虚無を眺めた後、A氏を探してみると、A氏は、俺よりももっと鬱屈した顔で、頬杖をついて虚無を眺めていた。
     
俺「どうしたよ?なんだ、その陰鬱な顔は」
A「あぁ?いや、まぁ、また、ぼちぼち生まれ変わらなきゃならないらしくてね、陰鬱にもなるだろ」
俺「キャンセルすれば?」
A「どうやら、避けられないこと、というのは、あるらしい」
俺「ははは、そうかそうか。それじゃ、君に言葉を贈ろう。人生は、登山に似ている。行き止まりに見えても、そこに行ってみれば、道は開けている」
A「......…」
俺「なんだよ。何とか言えよ」
A「そうねぇ。でもお前の場合は、…行き止まりに見えて、そこに行ってみれば、道を間違えていたことに気づく、だろ?」
俺「………フッ。間違えていたことに気づいたなら、引き返せばいいだけだろが」
A「………人生は、引き返せないよ」
俺「ぬ゛ぁ………」
     
 A氏と俺を沈黙が支配し、虚無は、その領域をまた少し、拡げたようであった。
  1. 2010/05/08(土) 20:53:03|
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虚無空間~雪山にて~

風は確かに強かったし、吐いた息は霜になって防寒マスクを凍らせたが、実際たいした吹雪ではなかったのだ。が、その時、俺には地面と空間の区別がついていなかった。状況はホワイトアウトに近く、一面の白。一歩踏み出し、そして、落ちた。自分がすでに崖っぷちにいたことに全く気づいていなかったのだ。
前日に登って来た谷底まで400メートル。岩にぶつかりながら落ちていく。不思議と痛みはないが、骨が砕けたのがわかる。
なんてこったい、しくじった、畜生目、クソッ、これで終わりか?
そして衝撃。


気づくとザックを背負い、ピッケルを握り締め、アイゼンをつけたまま俺は横たわっていた。
雪の上に?いや、何だ?この地面は。何処だ?此処は。
寒くない。痛みもない。手足は?あ、動く。動くぞ?…おかしいな。…俺は死んだのか?目の前で自分の手を開閉しながら、そのまま呆然としている。
痩せた男が俺の顔を覗き込んでいる。

男「おや。客人だ。珍しいね」
俺「こんちは」
男「で。いつまで寝ているのかな?」
俺「…」

何処かで見た顔だ。憂鬱そうな、神経質そうな顔。…まさかねぇ?

俺「此処は何処ですか?」
男「虚無の畔(ホトリ)だよ」
俺「俺は死んだのかな?」
男「私にはわからないな。自分で決めたらいいんじゃないか?」
俺「そうか。なんか、まだ生きてるっぽいな」
男「…ふ~ん。そうなんだ。まだ生きたいわけだ、君は」
俺「どうかな?どっちかつうとそうなるかな?…ところで、あのー、すいませんが、あなたはAさんではありませんか?」
男「さぁ?そんなことはもうどうでもいいよ。…で。結局、君はまだ生きたいんだよな?じゃあ、君に言葉を贈ろう。…人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦莫迦しい。重大に扱わなければ危険である」
俺「…どっかで聞いた言葉のような気がするけど。でもさぁ、人生なんて、何にでも例えられそうじゃん」
男「なんか急に元気になったな。で、たとえば?」
俺「人生は、登山に似ている。行先ばかり見ていると足元を掬われる。足元ばかり見ていると、行先を間違える。」
男「人生に行先なんて、あるのか?」
俺「さぁ?あるんじゃねぇの?…人によるかもな。でも、まぁ、行先じゃなくてもさ、大切なものを見失う、とかなんとか、なんでもいいんじゃん?」
男「お前が、大切なもの、なんて口にするとは思わなかった」
俺「愛、でも、いいけど?てか、俺のこと知ってるの?」
男「此処に来るようなのはだいたい決まってるんだよ。で、他には?」
俺「ん?そうだな…。人生は、ヨットに似ている。 逆風の時は、行先を変えてごらん。 行先を変えたくないなら、斜めに、進んでみてごらん」
男「…それから?」
俺「え、えーと。それから…人生は、んーと。人生は、戦争に似ている。…敵が前にいるとは限らない」
男「……あぁ、あぁあぁ。まったく同感だ。そうなんだ。まったく、そうなんだよ」
俺「そ、そうなんすか?」
男「もう、いい。お前はまだ生きたいんだろ。そろそろ帰れ」
俺「でもどうやって」
男「こっちだ。この虚無に入れ。少しでも戻りたいと思っているなら戻れると思うよ。もしかしたらそのまま虚無に呑まれるかもしれないけど」
俺「そうか。まぁ、どうでもいいさ」

俺はアイゼンをガチャつかせながら、虚無に踏み込む。
そして、落ちた。


幅数十センチの岩棚に積もった雪の上に俺は突っ立ていた。下は靄の中に消えて見えないが、数百メートルの断崖の筈であった。見上げると数メートル上に稜線が見える。が、この垂直の雪の壁を登る技術は俺にはない。この岩棚に沿って行き、稜線上に這い上がれる所を探すしかなさそうであった。足下から崩れていく雪を気にしながら、俺は生きるための一歩を踏み出した。




         
  1. 2010/05/04(火) 23:49:54|
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師匠の遺言

その日、普段は無口な師匠が言いました。
小さな声で、呟くように。


「人間ってのは 大してかわらねぇナっておいらが言ってもナンだけどサ
負け犬の歯ぎしりって言われんのがオチなんだろうけどサ
どいつもこいつも代わり映えしねぇモンなんだナって思ったのは確かなんだからヨ
仕方ねぇわナ
まーオメェさんに会う日ももう幾らもねぇから
ちぃとばかし言っとくかネ
前に言ったと思うがよォ大事だと思うからもう一度聞いてくんねぇかナ」


僕は黙って頷きました。


「人間ってなぁちとした一言ですぅぐ傷ついてムキになる
ナンだってそんなに弱っちいのかネ
耳の穴くらい開けときゃあいいもんだが
よぉく聞きもしねぇでしゃべり立てるわナ
ムキになる奴にぃ限って論理の欠片もありゃしねぇ
争ってばかりでよぉくも疲れねぇもんだァな
争うのがよぉっぽど好きなんだァな
いつかわっかんねぇけど戦争で人間が滅びちまってもおいら驚きゃしねぇナ
争うのが好きだってんなら仕方ねぇわナ
オメェさんはどうかネ 争うのは好きかネ 勝つのは好きかネ」


僕が口を開こうとしたら、師匠は言いました。


「いやいや言わんでよいサ
そいつぁ大事なこっじゃねぇから
ムキになって争うてのはたいしたこっちゃねぇんだな  良くはねぇが悪いこっでもねぇ 
大事なこたぁな
まー人間何言ってんのかより何してんのか の方が大事なんだけどヨ
それよか どう在るのか って事の方が格段に大事なんじゃねえのかナ
そこんとこわかんねぇヤツァみんなおんなしだわナ
どう在るのかってこたぁ ナニ大したこっじゃねぇ
どの程度 テメェ自身に気付いていられるのかってことだからヨ
テメェはそこでテメェの優越感や劣等感に気付いていなせぇ
臆病なテメェに 凶暴なテメェに気付いていなせぇ
テメェはテメェの嫉妬や憎悪や憤怒や悲哀にキチンキチンと向き合って生きなせぇ
目ん玉背けてぇテメェから目ん玉背けねぇでいなせぇ
そんだけのことでぇ随分いろいろ変わってくんじゃねぇのかい
ナニ争いやら喧嘩やらが好きでも構うこたねぇ
ただしっかり意識していなせぇ テメェでキチンと気づいていなせぇ
でなけりゃあ いつ迄経ってもおんなしことの繰り返しだからヨ」


僕はちょっと、首を傾げました。


「なんでってそりゃオメェ
気づいてなけりゃあ変えることすらできねぇんじゃねぇのかい?
オメェが変わらなきゃあオメェはおんなしこと繰り返すほかねぇんじゃねぇのかい?
まー 繰り返すのも一興  ひたすら変わりゆくのも一興
どっちを選ぶかはオメェさんの好きにするこったナ
ナニこんなこた始まりに過ぎねぇし
今更オメェさんに言うことなのかどうかもわっかんねぇが
言えるこたこんくらいだァな
後はオメェさんの好きなように過ぎてきゃいいだけだわナ
あーこりゃあ始まりだかんな先のこたオメェさん自分で考えな
考えることくれぇ自分でやらにゃあな」


師匠はそこまで言うと疲れてしまったようで目を閉じました。
眼を閉じたままで続けます。


「直感も感覚も感情もそりゃあ大事だがよ
感性やらをもてはやすのも結構だがよ
だからっつって思考がどうでもいいなんてわきゃあねぇんだナ
思考がはっきりしてねぇと流されちまう
考えて考えて考え抜くてぇことも忘れちゃならねぇ
まぁ 最後の最後まで 本当に 心底  絶対に 妥協しねぇで考えるてな オメェさんにゃまだむつかしいかも知れねェし 必要ねェかもしんねぇ
それはそれで まるで新しい世界が 見えて来ねェとも限らねぇわけだが  そりゃ ま オメェさん次第だぁナ   楽じゃねぇし 危ねえから 勧めはしねぇがな
まー  いずれにしてもな オメェはオメェの思考に気付いてなきゃならねぇ
オメェの思考が何を前提にしてんのか見極めなきゃならねぇ」


そして、聞き取れないような声で言いました。


「まぁオメェの人生だ    好きにやんな」


僕は次の言葉を待ちましたが、
幽かな息の音が聞こえるばかりでした。
師匠は眠ってしまったようでした。
鉄橋に懐かしい響きを残して電車が通り過ぎて行きます。
街の家々に灯りが燈り、この河川敷を吹き渡る風も冷たくなってきました。
僕はもう家に帰らなきゃいけなかったんだけど、師匠の息が苦しそうだったので、このまま、此処にいることにしました。
お母さんに怒られるな。お父さんにも怒られるな。おっかないな。
でもどうしても帰れませんでした。
星がちらほら光って、僕も眠ってしまったようでした。






目が覚めると辺りはぼんやりと明るく、一面、靄におおわれています。
師匠を見ると、師匠はもう息をせずに、冷たくなっていました。
師匠は死んだようでした。


「どうした?」

顔を上げると河川敷に住んでいる人が怪訝そうに見ています。

「死んだか?」

僕が頷くと、

「そうか。じゃあ、お墓を作ってやろうな。」

そう言って、僕と一緒に穴を掘ってくれました。
師匠の亡骸を埋め、盛り土の上に目印の石を置いて、僕が手を合わせていると、
その人が言いました。

「この犬と随分仲がよかったじゃないか。」

僕は黙って頷きました。
  1. 2009/01/20(火) 19:02:35|
  2. お話
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