絵空言 2011年03月

絵空言




朧月夜



春の 匂い

琥珀の 月影

翡翠の 風

この懐かしさに

この虚しさに


私は幽かに 狂い始める


誰にも 気づかれぬように

まるで 品行方正な 

社会人の フリをして


誰もが 誤解するように

時には 浮世離れした

夢追い人の フリをして


私は静かに 狂い続ける


何食わぬ顔をして

話し

歩き

笑い

佇み

空を 見上げ

私は 爆縮する



世界は 剥がれ落ち

境界線は 溶融し

彼岸と此岸は 対消滅する


宇宙は 正気を失い 彷徨い始めた



虚無が 嗤っている




テーマ:ヒトリゴト - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/05(土) 19:51:30|
  2. 空言

ぼくは 生きてますか?


もしもし?

世界は 壊れかけているのですか?

壊したのは 誰ですか?

きみ ですか?

ぼく ですか?

きみが 何処かで 何か 間違えたせいですか?

ぼくが いつか 何か 間違えたせいですか?

そうして それを

そこで 嗤っているのは きみですか?

ここで 嘲っているのは ぼくですか?





世界は まだまだ 続きますか?

きみの世界は どうですか?



ぼくの世界は  





まだ ありますか?



  1. 2011/03/18(金) 19:52:30|
  2. 空言

終わりとか 始まりとか


終わりの始まり?
まだ何も 終わっちゃいないさ

始まりの終わり?
待っても 何も 始まりゃしないさ

すべては変わっていくけれど
何一つ 変わっちゃいないのさ

誰も何も 間違えちゃいない
誰もが 真っ直ぐ 歩くだけ
移ろう景色を 眺めてさ

終わりの始まりの 終わり?
始まりの終わりの 始まり?

終わりも始まりも ありゃしねぇ


  1. 2011/03/20(日) 11:46:47|
  2. 空言

思い出




机に頬杖ついて ぼんやりしていると
時々 思い出すのです



僕は 一人で 何処かの川を 遡っていて
遥か遠くには 白い山が 見えているのです

いいえ 見えてはいなかったかもしれません

けれども 
辿り着けるのかどうかもわからないほど 遠くに
真っ白な 山が あると 知っているのです

そうして 僕は その山の方へ
川に沿って ひたすら 歩き続けているのです



空は 大地を映し出すほどに
蒼く 透明に 澄み渡っています

やがて 川が 緩やかに 高度を上げて 崖を 削りだす頃
川辺から 崖の上に出る道を 僕は辿るのです

崖の上には 落葉樹の森が広がっているのですが
どの木も 葉を落としていて

けれども 足下に
何かの花が 少しだけ 咲いていたような気がしましたから
もうすぐ 春になるのかもしれません

いいえ
風が 冷たかったから
きっと 秋だったのでしょう



そうして そこに
ポツンと 白い壁の 古びた一軒家があるのです
白い壁が 剥がれかけて 殆んど 灰色になった家が あるのです

二階建てか 三階建てで もう 誰も住んでいないようで
廃屋になっているのかもしれません

僕は その家の前に ぼんやりと 立ち尽くして

そうして 泣いているのです

もう 誰もいなくなってしまった家の前で
僕は 無表情のままに 
懐かしさに 狂いそうになって
泣いているのです







そんな風景が 僕の記憶の底の方に
淀んでいるのです

それは 僕にとっては
どうにも 懐かしい景色なのですが

残念なことに 
その記憶が 何処から来たのか
まるで まったく わからないままなのです

何処かの山の 思い出かとも思ったのですが
どうも 逆のようで 

僕は この記憶を探して
山を歩いていたような そんな気さえ して来るのです

現実に 引き戻された僕には
今の この現実への違和感ばかりが
纏わりついて

そうして また
時間が 過ぎて
僕は この現実に 少しづつ 馴染んでいくのです

テーマ:ヒトリゴト - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/22(火) 19:34:44|
  2. 空言

墓穴



海は満ちて 街を沈め
失くして
流して
思いを 呑み込む


月は満ちて 地球を覗き
照らして
映して
心を 包む


海が あまりにも哀しかったから
月が あまりにも優しかったから

だから あたしは
埋めようのない あたしの墓穴の上を
嘘で 塗り固めて
何処にでもあるような 家を建てたのさ

深過ぎる墓穴が 見えないように
幾重にも 嘘を塗り固めて
その上に 
形だけの 家を建ててみたのさ

道行く人が その家を見て 何と言ったかは知らないが
墓穴の上に 建っているとは 思わなかったろう

あたしも自分で 思わず 忘れそうになっちまったくらいだが
いずれそのうち
そのクソみたいな嘘を踏み抜いて
忘れかけてた 墓穴に
用意されてた 墓穴に
あたしは 転がり落ちるんだろう

海を 流し込んでも 満たされぬ
その墓穴に

月の光に 隠し様もない その墓穴に




テーマ:ヒトリゴト - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/24(木) 18:38:44|
  2. 空言

世界


溢れ出る世界は
止まることを知らない

零れ落ちた世界は
生成消滅を繰り返し
見慣れぬ景色を創り出す

死者は蘇らず
傷口は 縫合されぬままに

拡がっていく
拡がっていく
熱力学の第二法則に従って


踏み出そう
因果律を その指で辿り
共時性を その背に受けて

受け取るべきものを 
受け取るために


テーマ:ヒトリゴト - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/26(土) 19:12:07|
  2. 空言

丹沢にて

丹沢山地は 首都圏近郊の手頃な山として 親しまれているが
その主峰である蛭ケ岳より西に入ると 登山者はめっきり少なくなる

だから その日の早朝 蛭ケ岳山荘を出発し 一時間程歩いた私が 登山道の傍らに突っ立っている子供にひどく違和感を感じたとしても 不思議ではなかろう
年令は 六~七才だろうか
薄汚れた運動靴を履き この初冬の山中には不釣り合いな 薄手の白い長袖シャツを着ている
ボサボサの短い髪
男の子?いや 女の子 と言われればそのような気もしてくる
そんな捉えどころのない顔をしていた

不審に思ったが 
いや 不審なればこそ 声をかけてみる
その不審を 打ち消すために

「おはよう」

子供は 私を見て 笑っている
此処で 私を待っていたかのように

「こうやってね
光を キラキラさせるんだ」

子供はいきなり そう言って 手をかざして
少し振って見せる
何かを持っているのではなく
子供の手が 光っているようだ

「そうするとね
集まってくる人がいる
光の親和性 だね
光の欠片が 意識の中でまだ生きてる人は
光に引き寄せられるんだ」

子供は ニヤニヤして 続ける

「そこでね 闇を見せるんだ」

子供が 左右に大きく手を振る
私は目を見張った
突如として 子供の周囲から闇が 拡がり始めたのだ
凄まじい速さで 周囲の樹木が 崩れるように 闇に溶けて行く
空は明るさを失い 私の立っていた登山道も 崩れ 溶けた

上下左右 奥行の知れぬ 闇の空間で
奇妙な浮遊感と落下感を味わいながら 私は 子供と対峙していた

「面白いよ
集まって来た人たちが
蜘蛛の子を散らすみたいに 逃げて行くんだ
ははは
まったく 闇を見ずに 光だけ見ようなんて
どんだけご都合主義なんだろうねぇ?
そんなんで どうやって 光の向こう側まで 行くつもりなんだろう
無理に決まってるじゃんねぇ?」

闇の中で 子供が笑っている

何だ この子供は?
私は 混乱していた
何だ この闇は?
時間は 七時を回ったばかりの筈で 私は 山歩きをしていた筈だ
落ち着け
落ち着け
落ち着け
考えろ

「光に寄ってくる 光の子らは たいして遠くまで行けないと 僕は 思うんだよね
いくら 光 光 光 つって光を求めてもさ
貪欲なんだよ
あんたは どう思う?」

いきなり 一体 何の話だ?
私は 答えられずに 黙っている

「どうしたの?何で黙り込んでるの?」

子供は 少し 不機嫌になったようである

「答えないと 此処から出さないぞ」

いや しかし  そう言われても

そもそも 状況的に この子供は 人間じゃないよな?
私は 別に オカルトと言われる分野に拒絶反応を起こすような人間ではない
むしろそれらに多少は関心があるくらいだ
しかし 実際にはUFOらしき正体不明のモノをだいぶ以前に見かけたことがあるくらいで
いきなりこのような事態に遭遇しても対処法がまるでわからない

とりあえず 答えてみる

「そ そうだね 俺もそう思うよ」

子供の眼が 真剣になる
ヤバい

「嘘つきっ」

子供が 甲高い声で叫ぶ

「あんたもそうなんかっ
現実を素通りしてっ
妄想に閉じ籠ってっ」

私を包む闇が 重くなり始めた
指先を見ると すでに 溶けている
クソ 何なんだこれは
まずい マズい マズイ
焦り 振り返って子供から逃げようとしたが できない
下を見て すでに 脚が消えていることに気づいた
そして 腕が消えた

「ぅあっ」

・・・死の 感覚に 恐怖する




その時 肩を強く叩かれた

闇と子供は 消え 私は 登山道に突っ立っていた
冷たい風の中に じっとりと汗をかいて

慌てて腕と脚を確かめるが ちゃんとついている
振り向くと 黒いジャケットを着た老人が 私を見て 幽かに微笑っていた

「あ ありがとうございます」

しかし 言葉が続かない
私は どう見えていた?どう説明する?
ちらと 時計を見ると もうすぐ九時半になる
バカな・・・二時間半も経ったのか?
私が困惑していると
老人は何も言わずに速足で 私の来た蛭ケ岳の方へ歩いて行った

私は 深呼吸すると 西丹沢へ下ることにした





バス停で暫く待たされて やっと来たバスに乗ろうとした時

「まだ 生きたいんだな?」

何も言わなかった筈の老人の声が 何処からか 聞こえた気がした

「どうやら そうらしい」

私は小声で呟き 山を振り返ると 
稜線は雲に覆われ もう見えなかった
そして 何故か あの子供の顔と 老人の顔が重なって思い出された
  1. 2011/03/29(火) 20:03:40|
  2. お話