絵空言




師匠とその弟子

ある月の綺麗な夜のことでした。

お師匠さまは二人の弟子と、丘の上で冥想しておられました。




「お師匠様はウソを吐いておられますね」

「いきなり何の話かな?」

「パリサイ人たちのいう神とお師匠様のおっしゃる神は別モノでしょう?
なぜ同じ神として話されるのですか?」

「前にも言ったろう?
神と言うのは、擬人化だよ。それはまるで人ではないのだよ。
それをねぇ、わかりやすいように、まるで人であるかのように話してるだけなんだ。
そうそう、最近は擬人化が流行ってるのかね。
“艦これ”っつったっけか。“艦娘(かんむす)”とかわけわかんないよね。
トマスはそういうの詳しいだろう?」

「いいえ、お師匠様」

「そうか。相変わらずトマスは無口だねぇ。
うん、要するにね、あの艦娘と実際の戦艦くらいかけ離れてるよ、…それ以上かな、ユダの考えている神と実際の神とでは」

「お師匠様、例えがまったくわからないのですが…」

「ユダにはわからんか。トマスはわかるよな?」

「いいえ、お師匠様」

「ふむ。そうか。じゃあ、おしゃべりはこのくらいにして冥想に戻ろう」

「いやいやいやいや、ちょっと待って下さい。質問に答えてないじゃないですか。お師匠様はまったく新しい神を語っておられる。俺は混乱して頭がおかしくなりそうだ」

「そうか?神に新しいも古いもないぞ?東の国には300万の神々がいるそうだ。さらに東の果てには800万の神々がいるそうだ」

「お師匠様は多神教徒だったのですか????あれは外道ではないですか」

「それはどうかな…。私の言う神にはパリサイ人の神も含まれるけど、パリサイ人の神に私の言う神は含まれない。
デミウルゴスは神ではないが、神はデミウルゴスでもある」

「わかりません」

「神は創造主でもあるし、八百万の神々でもある。お前であるのと同じように。ただ…お前の場合は、神はお前でもあるが、お前は神ではない」

「まったくわかりません」

「そうか。…トマスにはわかるな?」

「いいえ、お師匠様」

「擬人化というのは…つまり、ウソなのですか?」

「ウソも方便」

「……。」

「言葉はすべてウソともいえる。ウソでない方便など、ないよ。神と言い、悪魔と言う。言葉の上の話だ。言葉を超えれば、神も悪魔も消える」

「さっぱりわかりません」

「わからないか。ふむ。いい言葉だね」





沈黙が流れ、あたたかな風がゆるりと三人を包んで過ぎていきます。

お師匠さまが磔に処せられてしまったのはそれから一年と少し後のことでした。







『イエスが言った、

「…木を割りなさい。私はそこにいる。

石を持ち上げなさい。そうすればあなたがたは、私をそこに見出すであろう」』




                トマスによる福音書





テーマ:奇妙な物語 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/29(金) 08:32:06|
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