絵空言 2016年10月

絵空言




君を想ふ

遠く

君に 遠く

この手は届かなくて
指先の触れることも無い
さうして 言の葉の届く事も無く

哀しいくらゐ
遠くに 君を感じてゐる

実はね 
この間 君に 会ひに行かうかと思つたんだ
思つた事がもう 全然僕らしくもなかつたのだけど 
行かうかどうしようかと 迷つてゐたんだ

少し 雨の降つてゐた日だつたと思ふ
僕は あの半端な雨のやうに迷つてゐて
腹を空かせた猫のやうに迷つてゐて

でも どうしても行けなかつた

ダメなんだ
僕は 僕の世界でしか 生きられないから
僕は 君の世界に触れることすら出来ないんだ

君は人の中で 生きていくでせう
其処が君の世界だから

でも僕は人の中では生きていけないから
僕は冷たい虚無の宇宙にしか 生きられないから

だから 君と僕の接点は 何処にもないんだ
幾ら探しても 何処にも全然 ないんだ


この手は届かなくて
指先の触れることも無い
さうして 言の葉の届く事も無く

哀しいくらゐ
遠くに 君を感じてゐる


でも それなのに
それでも少し たぶん気のせいなのだけれど
幽かに少し
君の心が触れたやうな気がしたんだ

たぶん それで 
それだけで 僕には十分なんだ

だから僕は 遠くで君を想つてゐよう

本当は君は 僕に気づいてさへゐないのかもしれない
さうして僕もそのうち 君を忘れてしまふだらう

それでも今は 

遠く 遠くで君を想つてゐよう

  1. 2016/10/01(土) 22:46:35|
  2. 詩のやうな

深淵


僕は 深淵を覗き込んでゐるんだ

世界に背を向けて
屈み込んで 深淵を覗き込んでゐるんだ

振り返れば いろんな何かが見えるんだらう
だつて其処は世界だもの いろんな何かが在るんだらう

懐かしい何かが 少しだけ
金木犀の香り それから沈丁花の香り

愛しい何かが 幽かに少し
たぶんもう 全部思ひ出

それから理不尽な何かが 腐るほど
どうでもいい雑多な何かが 山のやうに
これらはいつまで経つても無くならない

でも 僕はもう そんな世界なんて知らない
世界なんて忘れてしまつた

だから 振り向かないで 僕は深淵を覗き込む

此の闇
深く 何処までも透明に澄んだ 闇
此の闇の奥に 僕はそのうち 溶けて消えるだらう

世界は浅く 薄く 希薄になつて 消えてしまふ



あゝ 誰だらう 
後ろで呼んでゐる気がするけれど

…たぶん気のせゐだらう


  1. 2016/10/02(日) 20:45:10|
  2. 詩想

輪廻


僕は死んだら安らげますか
それとも 安らぐ僕も消えるのですか

なればどんなに素敵なことでせう…


僕は死んだら消えるのですか
それともまた 生まれ変はるのですか
見知らぬ土地に
見知らぬ僕が生まれるのですか

遥かな昔 中国の城塞都市に生まれたやうに
大航海時代 西班牙の港町に生まれたやうに

さうしてまた死ぬのですか
一つ前の生で兵士だつた時のやうに
頭を撃たれて死ぬのですか
一人追い詰められて 殺されるのですか

僕は いつまで続ければいいのでせう
一体 どうして続けねばならないのでせう

僕はもう 還りたいのです…


繰り返される輪廻の合間のいつかの時に 
僕は懐かしい光の海を見てゐたんだ

あれはいつの生だつたらう
吐蕃の寺院で暮らしてゐた時でせうか

あれが僕の還る処なのだと
僕は生まれる度に
あの光を思ひ出して 泣くでせう

幾度生まれ変はり 死に変はり どのやうな生を繰り返さうとも
僕はあの光に還りたくて 泣くのでせう…


  1. 2016/10/04(火) 21:41:44|
  2. 詩のやうな

散りゆく季節


彼方を見つめ
生と死を 遥か後ろに
三千世界の尽き果てる処
虚空の淵に立ち 途方に暮れてゐる

さうして足元の小石に蹴躓いて 僕は目を覚ますのだ

冷たい雨が通り過ぎ
金木犀は 疾うに散り失せ
沈丁花の まだ咲く筈も無く
流れゆく人波の中で
僕は居場所を見失ふ

僕と云ふ何かは
僕と云ふカタチを地上で再構成することに失敗し
陽炎のやうに彷徨つてゐる

どうして僕に居場所などあるだらう
どうして僕に帰る場所などあるだらう

どうして僕と云ふ何かの存在する余地があると云ふのだらう

僕と云ふ何かが居ないのなら
安息の地など 有る筈もなく

煌めき輝く世界は 再び 僕の手を擦り抜ける

さうして僕は 手を伸ばす事すらせずに見つめてゐるのだ

この町並みも
この喧騒も
馴れ親しんだ人々も
遠く遠く 触れる事の叶ひ得ぬまでに遠く
霞と消えゆくのを見つめてゐるのだ

僕の前には唯 茫漠たる虚空が開け

僕は塵へと還元され

風に溶け

虚空へと消える…


  1. 2016/10/13(木) 21:40:49|
  2. 詩想

ゴルディアスの結び目

どうにもかうにも
僕の心は手に負へない

ゴルディアスの結び目のやうに
きつく固く結ばれて
どうにもかうにも解きほぐせない
どれほど刃を突き立てても断ち切れない

その結び目が全てを拒絶するのだ
人間の全てを
世界の全てを 
僕から断ち切らうとするのだ

冷ややかに纏はり付く闇となつて
僕の思ひを侵蝕し
僕の世界を絞め殺さうとする

僕は為す術も無く
侵蝕され息絶えてゆく僕の思ひを見てゐる


さうして全ての係累が断ち切られてゆく
僕に何ができると云ふのだらう


さうなのだ…
この結び目は僕なのだ

解きほぐせるわけがない
刃で断ち切れるわけもない

僕はただ
僕が僕を呑み込み消し去つてしまふのを
見てゐることしか出来ない


  1. 2016/10/25(火) 20:24:36|
  2. 詩想