絵空言




思い出




机に頬杖ついて ぼんやりしていると
時々 思い出すのです



僕は 一人で 何処かの川を 遡っていて
遥か遠くには 白い山が 見えているのです

いいえ 見えてはいなかったかもしれません

けれども 
辿り着けるのかどうかもわからないほど 遠くに
真っ白な 山が あると 知っているのです

そうして 僕は その山の方へ
川に沿って ひたすら 歩き続けているのです



空は 大地を映し出すほどに
蒼く 透明に 澄み渡っています

やがて 川が 緩やかに 高度を上げて 崖を 削りだす頃
川辺から 崖の上に出る道を 僕は辿るのです

崖の上には 落葉樹の森が広がっているのですが
どの木も 葉を落としていて

けれども 足下に
何かの花が 少しだけ 咲いていたような気がしましたから
もうすぐ 春になるのかもしれません

いいえ
風が 冷たかったから
きっと 秋だったのでしょう



そうして そこに
ポツンと 白い壁の 古びた一軒家があるのです
白い壁が 剥がれかけて 殆んど 灰色になった家が あるのです

二階建てか 三階建てで もう 誰も住んでいないようで
廃屋になっているのかもしれません

僕は その家の前に ぼんやりと 立ち尽くして

そうして 泣いているのです

もう 誰もいなくなってしまった家の前で
僕は 無表情のままに 
懐かしさに 狂いそうになって
泣いているのです







そんな風景が 僕の記憶の底の方に
淀んでいるのです

それは 僕にとっては
どうにも 懐かしい景色なのですが

残念なことに 
その記憶が 何処から来たのか
まるで まったく わからないままなのです

何処かの山の 思い出かとも思ったのですが
どうも 逆のようで 

僕は この記憶を探して
山を歩いていたような そんな気さえ して来るのです

現実に 引き戻された僕には
今の この現実への違和感ばかりが
纏わりついて

そうして また
時間が 過ぎて
僕は この現実に 少しづつ 馴染んでいくのです

テーマ:ヒトリゴト - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/22(火) 19:34:44|
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