絵空言




別れ道

実在の地名とは一切、無関係です・・・





「黒い雨が土砂降りの日でも 桜は咲き続けるんだろう
黒く染まって枯れて散るんだろう
それで いいんじゃないか
俺も おめぇも」


「・・・それで いいのかな?
僕は もう少し 先が見たいんだけどな」


「そうか? じゃあ おめぇは 先に行きな
先に行っても 何も代わり映えしねぇと思うけどな
此処だって千年二千年すりゃ町の一つや二つできるかもしれねぇ
一万年もすりゃ 人間の考え方も今とはまったく違うんだろうさ
でも それが何だってんだよ?
違う考え方をしたところで中心からズレてりゃどうせまた同じことが繰り返されるだけなんだろ?
俺は もう いいや
知ったこっちゃねぇ
見ろよこの景色
おめぇも覚えてるだろ? あのクソでかかった街がこんなになっちまうんだぜ?
今じゃクソ瓦礫しかねぇただのクソ原っぱだ
行けども行けどもクソしかねぇ
あんなにいた人間が誰もいねぇ
それもなんだ?自分らで壊しちまったんだぜ?
自分らで造って自分らでクソにしちまったんだぜ?狂ってるぜ
これじゃあ初めっから何もないままの方が全然良かったじゃねぇか
人間てのはクソを作るしか能がねぇんだろうな きっと

…まぁいいや どうでも
とにかく俺は戻る
おめぇは先に行け」


「先に行けって…
僕には道がわかんないな
どっちに行けば いいのかな」


「まっすぐ行きゃいいんだよ
何処までも まっすぐにさ
どうしてもまっすぐ行けない時は
好きな方に行きゃいいのさ
どっちに行ったって大して変わらんよ
おめぇにとっちゃ 違うように見えるかもしれねぇが
まぁ どうしても迷った時には おめぇの “落ち着く方” に 行きな
これも受け売りなんだけどな
俺に言えるのは そのくれぇなもんだ」


「本当に帰んの?
…瓦礫と放射能と死体しかないのに
…クソしかないって自分でいま言ったじゃないか
なんかさ… あんた もしかして」


「探し物だよ」


「探し物?」


「本だよ」


「…本?なんで本?何の本?」


「大事な本なんだよ 俺にとってだけじゃなくて
そうだな…うまく説明出来ないが…自分が自分の中心に戻る為の本だ」


「そんなの見つかるわけないじゃん
燃えちゃったに決まってるじゃん
燃えてなくてもとっくに腐ってるよ」


「行ってみなけりゃわからん」


「無理だね 絶対無理 無理無理無理」


「探しもせんで後悔するよりゃいい」


「わかんないな…そんなん自分で書けばいいじゃんか」


「ん?…いや 今の俺には無理なんだ」


「ふ~ん…何かよくわかんないけど どうしても戻るんだ…」


「あぁ」


「そっか …また会えるといいな」


「あぁ いつか また…
そん時は こんな世界じゃないといいけどな」



「そだね・・・」



「じゃ」





「じゃあね・・・」





・・・・・・・




「…ったく振り向いてねぇでさっさと行きゃいいのに
…手なんか振ってんじゃねぇよ
…ったく最後まで男の振りしやがって
まぁ 今まで会った中では一番面白い奴だったけどな…

…さて 帰るか」





・・・・・・・





それから一万数千年後、その荒廃した地域は江戸或いは東京と呼ばれ、数々の災害を乗り越え数百年に渡り空前の繁栄を誇ったという。

しかしそれもある時、一昼夜にして数千万の住人共々泥海に沈んだと伝えられて現在の泥濘地帯に至る。

もっとも最近の研究から、東京(江戸)は海に沈む以前にすでに主要な都市機能(物流)を失っていたのではないか、従ってすでに大半の人々は去っており、共に沈んだ人々の数も一千万を越えないのではないか、という説が唱えられ、注目されている。
異説には火山灰に埋れたとあるが、信憑性は低い。
もっとも都市機能喪失の一因としての火山灰説は有力である。







テーマ:奇妙な物語 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/04/27(土) 07:42:21|
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