絵空言




一輪の花にすら 届かない

世界とは 何でございましょう


世界 と申しましても共同幻想としてのそれではございませぬ

個々人において認識された領域としての 世界でございます


思いまするに 世界とは秩序なのでありませぬか
いいえ これも観点の一つに過ぎませぬ

されどやはりこれは世界に関する一つの大きな要素を成していると思うのでございます


無秩序を 混沌を 世界と呼んでも構わぬのでありましょうが
ヒトが欲するのは秩序としての 世界でございましょう

ヒトが 混沌としての世界に そう簡単に耐え得るとは思えませぬ
おそらくは其処に秩序を構築することでございましょう
その秩序が虚構か否かは関係ありませぬ

えぇ 実を申せば秩序とは全て虚構なのではないかとわたくしは疑っておるのでございますが

論証もできませぬゆえその話は止めておくことといたしましょう


なれば何ゆえ ヒトは秩序を構築してしまうのでありましょうか

理屈をつけて 意味を付与するのでありましょうか


世間には実に様々な方がいらっしゃいます

中には渾沌にお住まいと見受けられる方もあるやもしれませぬ

されど 人様から見れば渾沌でありましても

御本人が意識されようとされまいと 其処には必ず秩序があるものでございます


何ゆえヒトは秩序を求めるのでございましょう

何ゆえヒトは渾沌を忌避するのでございましょう


混沌に直面するなら ヒトは簡単に狂うでありましょう

思うに世界とは秩序でありヒトなのではありませぬか
ヒトとは秩序であり世界なのではございませぬか

それゆえ本質的に渾沌とは相容れぬ存在なのではございませぬか


そうしてもしも


もしも


ありとあらゆる如何なる秩序も虚構であるのなら

ヒトもまた虚構であるやもしれませぬ…

此処に立ち止まって振り返るのであるならば

あなた様もわたくしめも 虚構であることを如実に知らされるのではありませぬか

少なくとも 秩序として認識されている限りにおいてではありますが


こんな話がございます


昔々 知恵の書を求めた男がおりました

転生を繰り返し 夥しい血の海の果てに

男はついに知恵の書を 手に入れました

されど其の書によって全知を得たその男は 

即座に自らの首を斬り落としたそうな


もし仮に 真理なるものがあったとしても

それがあなた様やわたくしめにとって都合のよいものでなければならない理由は皆無でありましょう


えぇ そうなのです

わたくしは疑っておるのでございます

真理とは渾沌なのではございませぬかと

世界は虚構に彩られ

わたくしたちは虚構に住し 虚構に死ぬのでございましょう

虚構に生れ 虚構の内に輪廻するのでございましょう

其処にはありとあらゆる喜怒哀楽

ありとあらゆる快苦の反復があるのでございましょう


…されど 其処には 真理がない


あなた様は違うと申されますか

わたくしめが間違っていると そう申されますか

そうなのやもしれませぬ

されどわたくしにはどうしても思われるのでございます


…ヒトとは 真理に耐えられぬ生き物をいう


そうしてわたくしは問わざるを得ないのです


渾沌において 何ゆえ 秩序が生まれたのでありましょうか

真理において 何ゆえ 虚構が生まれたのでありましょうか


此処に一つの解がございます

それは生れたのではありませぬ

秩序もまた渾沌

虚構もまた真理

色即是空 空即是色

えぇ あの短い経文は真実を語っておりましょう

秩序と混沌の 虚構と真理の分別が 意識の分裂を生み出しているのでございましょう

これが一つの解でございましょう


なれどわたくしにはわかりませぬ

色即是空

確かにそういうことなのやもしれませぬ

されどわたくしには わかりませぬ

色でも空でも何でもよいのでございます

実を申せば 秩序でも渾沌でも

虚構でも真理でも何でもよいのでございます

これが一つであれ二つであれ


しかしそもそもこれは一体 何なのでございましょうか

分別が生み出す意識の分裂がなければ それがわかるのでしょうか

こんなことを書いている限りは色即是空をわかっておらぬということなのでしょうか

色即是空の真意は 色もなく空もない ということなのではありますまいか




…と ここまで書いた時 誰かの呟きが聞こえたような気がした





「つべこべうるさい奴だな 


それを問うおまえが消えればよいだけのこと


さもなくば 一輪の花にすら 届かぬかと






霙模様



  1. 2013/06/11(火) 20:35:42|
  2. 詩のやうな
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