絵空言




虚無空間~退屈な日常~

「あなた 壊れかけてる。狂ってるわ。現実を見てない。逃避しているだけよ」
「そうかな?逃避しているのは君らなんじゃないのか?」
「君らって…何なの いったい。自分だけが正しいとでも思ってるの?あの人が怒鳴りつけた理由、全然わかってないの?」
「未熟な老人が多いからな。見るに耐えらんないほど幼稚な大人たちがそこいら中を飛び跳ねてる。君も気をつけた方がいいよ。見かけの年齢に惑わされないように」
「…あなたに何を言っても無駄なのね」
「それは君が」
「あなた 終わってるわ」
「…それだけは正解」
疲れて来た俺が無理矢理笑ってみせると、彼女は凄まじい形相で俺を睨みつけてから、ドアを叩きつけるように閉めて出て行った。
俺は間違ってんのかな?
彼女にはもう会えないだろう。これで、いいんだよな?仕方ないよな?
自分に嘘付いたって、そっちの方が耐えらんねぇし。…なんかいっつもこんなんばっかだな。
気が滅入ってきた俺は、事象の裏側へ、遊びに行った。勿論、A氏をからかうためである。
行き方は分かってる。別に雪山で遭難しかける必要はなくて、こんな気分の時にほんの少し意識の焦点をずらすと、結構簡単に行けることを先日発見したのだ。

行ってみると、どうも、虚無の領域が以前よりも拡大しているようであったが、今の俺にとっては、大した問題とも思えなかったし、そもそも、虚無に対しては、誰もが完全に無力であった。
しばし、虚無を眺めた後、A氏を探してみると、A氏は、俺よりももっと鬱屈した顔で、頬杖をついて虚無を眺めていた。
     
俺「どうしたよ?なんだ、その陰鬱な顔は」
A「あぁ?いや、まぁ、また、ぼちぼち生まれ変わらなきゃならないらしくてね、陰鬱にもなるだろ」
俺「キャンセルすれば?」
A「どうやら、避けられないこと、というのは、あるらしい」
俺「ははは、そうかそうか。それじゃ、君に言葉を贈ろう。人生は、登山に似ている。行き止まりに見えても、そこに行ってみれば、道は開けている」
A「......…」
俺「なんだよ。何とか言えよ」
A「そうねぇ。でもお前の場合は、…行き止まりに見えて、そこに行ってみれば、道を間違えていたことに気づく、だろ?」
俺「………フッ。間違えていたことに気づいたなら、引き返せばいいだけだろが」
A「………人生は、引き返せないよ」
俺「ぬ゛ぁ………」
     
 A氏と俺を沈黙が支配し、虚無は、その領域をまた少し、拡げたようであった。
  1. 2010/05/08(土) 20:53:03|
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