絵空言 虚無空間~最低な日の翌朝~

絵空言




虚無空間~最低な日の翌朝~

最悪の気分で目が覚める。
午前三時。まだ二時間も寝てない。
昨日のことが頭から離れねぇ。気が滅入る。・・・俺のせいか?契約が取れなかったのは俺のせいなのか?バカな上司が余計な口出ししたせいなんじゃないのか?まったくありえねぇよな。あんなんで先方と話が合うわけねぇし。契約取れるわけねぇし。
上司の口出しに対応しきれなかった俺がバカだった?あぁ、そうだよ、俺がバカだったんだよ。それとも何か?俺は自分の失敗をバカ上司に責任転嫁してるだけか?言うべきことを俺は言うべきだったんだ。チクショウ、またやっちまった。久々の自己嫌悪。昔を思い出しちまったじゃねぇかよ。ふざけんな。ボケッ。凹む。凹む。凹む。クソッ。
思わず毛布を蹴飛ばした瞬間、俺の意識の焦点は、事象の裏側にずれて、あの空間へと落ち込んだ。


虚無は異様な広がりを見せ、空間はかなり歪み始めているようだった。
A氏は孤島のようになってしまった地面に生えている虚木の枝に腰かけていた。
俺は根元から、声をかけた。
「おい。おいおいおい。なんでまだ居るんだよ?生まれ変わったんじゃないのかよ?」
「おまえこそなんで来たんだ?意図しないで此処に来てしまうようだと病気だぞ」
「・・・」
「お、凹んでるな?何があった?ははぁ、私の忠告を無視したな。人生は」
「もういいよ。人生は。てか、おまえ、いつまでここにいるんだよ。さっさと生まれ変われよ」
「何、気にすんな。虚無が荒れてるだろ。直にこの空間は崩れる。もうすぐだ。崩れて虚無に還る。それまで居たっていいだろ」
「チッ」
「なんだ?・・・ん?そうかそうか。独りになりたかったのか。そりゃあ、残念だったな」
「うるせー」
「ま、こっち側にはね、いろんな空間があるから、また、適当なのを見つけりゃいいさ」
「おまえは生まれ変わらにゃならんけどな」
「うるせー」

じわじわと足場が崩れていく。とりあえず、俺も虚木に上り、A氏の隣の枝に座った。
凄まじい光景が広がっていた。虚無は触手のように虚空へ伸びていき、虚空を取り込もうとする。
虚空は滝のように落下し、虚無をかき乱す。そして、混ざり合う。
混沌、とは、こういうことか。世界の終わりは、こんな景色か。或いは、世界の始まりは。

虚木が虚無へと還元され始めた。A氏が虚無に呑まれていく。
A氏は一瞬、ひきつったような顔をしたが、俺の方を見て、苦笑いして、消えた。
何処に生まれ変わったことやら。
そして俺にも虚無が纏わりつき始め、音もなく虚木が消えた。一瞬の浮遊感。そして落下。いつもの俺の部屋へ。
あの空間は完全に虚無に還元されたようだった。


「はぁ~ぁぁぁぁぁ~」
俺は全身全霊を込めてため息を吐いた。何も変わっちゃいねぇ。
もう時間だ。俺はのろのろと会社へ行く準備を始めた。

ふと携帯を見るとメールが来ている。俺に甥っ子が出来たようだった。


 
 
 
  1. 2010/05/18(火) 05:12:49|
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