絵空言 変容

絵空言




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変容

或る晴れた暖かな日の事です
キョムは久しぶりに日の下を散歩する事にしました
何故かつて?
それはたださう云ふ気分になつたからとしか云へません
外に出るのは何年ぶりでせうか

心も軽く草原の道を歩いてゐるとセイが道端の石に腰かけてゐました
セイは酷く陰鬱な顔をしてゐてキョムが話しかけようと近づくとキョムを見上げて云ふのです

「そろそろ来る頃だと思つてゐたよ
君はどうして此処に来たのか知つてゐるかい
僕が呼んだのだよ
あゝ僕は君を呼ぶべきではなかつた
呼ぶつもりすらなかつたのに
何もかもが終つてしまつた

…君はシに似てゐるね
君に僕が殺せるかい?」

云ふや否やセイは立ち上がると論理でキョムを焼き尽くさうとしました
慌てたキョムが咄嗟にセイの意味を剥がしてしまつたのでセイは翳(かす)み始め
さうして消えてしまひました
絶望と驚愕の表情を最期に
まるで初めからゐなかつたかのやうに消えてしまひました

「何だか取り返しのつかない事をしてしまつたやうな気がする
何も慌てる事はなかつたのに
論理で私を焼き滅ぼすなんて出来る訳がないのだから」

キョムが呟きます

「何だか硝子細工を踏んで壊してしまつた気分だ…」

青い空に鳥が鳴きとても気持ちのいい日です
軽かつた足取りが少し重くなつたやうな気がするけれどキョムは歩き続けました

暫(しばら)く行くと道の真ん中でシが仁王立ちしてキョムを睨みつけてゐます

「見てゐたぞ
おまへセイを殺したな」

「仕方ないのだよ
セイがいきなり」

「セイ如きにおまへを殺せるわけがないだらう
おまへは何もせずに黙つて帰ればよかつたのだ
セイを殺すのは俺でなくてはならなかつたのに何故おまへが殺すのだ
おまへは地上に出てくるべきではなかつた
陽の光を浴びるべきではなかつた
永遠に地の底を這いずり回つてゐればよかつたのだ
化物め

…おまへは俺に似てゐるな
おまへがゐると俺の影が薄くなるから消えてくれないか」

さう云ふや否やシはキョムに喰いつきキョムを呑み込みました
呑み込まれたキョムは慌ててシの腹を裂き其処から出て逆にシを呑み込みました
シは絶望と驚愕の表情を浮かべたままキョムに呑み込まれていきました
シはキョムを裂く事ができずにそのままキョムの中に消えました

「あゝあゝ今日は何と云ふ日だらう
私は一体何をしてしまつたのだらう
セイもシもゐなくなつてしまつた
私が殺してしまつた
あゝあゝあゝもう二度と返らない
セイにもシにも二度と会えない
元には戻らないのだ」

キョムは立ち止まり空を見上げて泣きました

「セイもシも私がゐなければ今まで通りに過ごせてゐたのに
私はどうすればよかつたのだらう
このやうな事になつてしまふとは思ひもしなかつた
あのまま地の底で眠り続けてゐればよかつたのだらうか
でも私を呼び起こしたのが本当にセイだつたとするなら
何もかもが必然なのだらうか
私にはわからない」

風は緩やかに纏はりつき
陽射しは穏やかに全てを包み込んでゐました

「私はセイとシの影だと思つてゐたのだけど
どちらも私が殺してしまつた
私がキョムなのは彼らが私をそのやうに定めてゐたからならば
今の私は何なのだらう」

キョムはため息を吐いて草叢(くさむら)に寝転びました
青い空に白い雲がゆるりと流れて往きます
目を閉じれば暖かな風が頬を撫でていきます

キョムはすでにキョムではなく
全く別の何かへと変はり始めてゐるやうでした


  1. 2017/03/07(火) 21:01:00|
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